俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 床に散乱する残りの私物を手早く仕分けした後、ゴミ袋の口をしっかりとしめて掃除機を引っ張り出し、埃や小さなゴミが散布された廊下をキレイにした。埃が付着してしまっているような手触りが床に残っていたので、ついでに雑巾もかけた。

 すっかり元通りの廊下になったことを確認して、リビングに戻った時、既に外の日差しは色をやや濃くしており、午後の珈琲タイムの時間を過ぎてしまっていた。

 冷蔵庫の扉を開けて、ペットボトルのまま水を多めに飲んだ。肌に服がしっとりとまとわりつくような汗を覚え、縁側に腰を降ろして煙草をゆっくりと吸いながら、しばらく風にあたった。

 じわじわと込み上げる緊張を、少しでもほぐそうと思って空を仰いでみたが、厚い雲の群れが漂っているだけだった。なんだか雨を含んでいるような不穏な群雲は、彼の気がかりを少しも軽くはしてくれなかった。

 そのまま二本の煙草を消費した柳生は、縁側に腰かけたまま、棚の上に所在なく置かれた写真の束と、固定電話機の横に用意した例の電話帳の方へ顔を向けて、元妻の両親は在宅だろうかとぼんやり考えた。