俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 この世の誰よりも幸福に笑う若き日の妻と、その腕に抱えられた赤ん坊。そして、やや誇らしげな顔に浮かぶ照れ臭さを、顰め面で隠そうと装った黒髪の男が、寄り添い写っている。

 家族の写真を撮る時は、大抵は柳生がカメラを抱えていたから、この写真には覚えがなかった。彼の友人や妻の家族や、そして通りすがりの人や居合わせた人に撮ってもらったり、送られてきた写真ならいくつもあったので、その中の一つなのだと思い至るまでにしばらく時間がかかった。

 今でもそうだが、柳生はあまり写真という物が好きではなかった。撮影することを頼まれるのは構わなかったのだが、自分が撮られるというのは、どうも慣れない。

 数少ない友人達は「勿体ないよ、今のこの瞬間を、しっかり残しておかなきゃ」と言って、自前のカメラを彼に向けてシャッターを切った。忘れかけた頃に送られてきた写真や、ついでにと玄関先で渡された写真をこの引き出しにしまっていたことを、今まですっかり忘れてしまっていたことを思い出した。

 何せ数冊に及ぶアルバムについては、すべて妻がまとめていたし、すっかり彼女の物でもあったので、出ていく際にすべて持たせていたからだ。