ここ十年ほど、柳生は毎日の食事を外での軽食で済ませることが多かった。向かう先の途中で喫茶店に入って珈琲とサンドイッチを頼み、打ち合わせとして寄った先でも似たような物を口にし、茶菓子で満足して一食を抜くこともすっかり定着していた。
 仕事で用がない時は漫画喫茶などに行き、雑誌などを読みつつ、やはり軽く胃を満たして帰宅する。若い頃と違って時間に余裕を持っているせいで、仕事がてら外を歩いている中で、食事処を目にするとふらりと立ち寄ることも珍しくなかった。

 最近一番よく利用するのは、W出版社と彼の自宅との間に新しくできた、駅近くにある大きな二階立ての漫画喫茶である。パック料金はないものの、二階建ての建物は清潔感溢れるガラス張りで見晴らしが良く、漫画だけでなく雑誌や小説もいくつか揃えられていた。
 一階、二階にドリンクバーが設置され、それぞれの階にオープン席や個室席、そしてコインロッカーも完備されている。少しの待ち時間に立ち寄る客も多かったし、二十四時間営業ということもあって、終電に乗り遅れた人の利用も多くあった。