「おい、岡村。お前、住所をぼかして手紙を出したことはあるか?」
「突然なんですか、先生? 住所をぼかしちゃったら、返事がもらえないじゃないですか」
岡村は、まともな意見を言った。経費で飲み食い出来るうえに一泊出来るとあって、既に二本目のビール瓶に手を伸ばしている。彼はそれを不器用な手で力任せに開けて、自分と柳生のコップに継ぎ足しながらこう続けた。
「でもまあ、それに近い手紙なら、もらったことがありますよ」
神妙な面持ちでうんうんと頷き、岡村は遠い過去を思い出す風な、しみじみとした口調で言った。
「送り主の住所欄には『琉球以下略』と書かれていて、送り人名が『(笑)』でした」
それはそれで興味深い。
柳生はコップに注がれたビールを飲み、話の先を促した。
「ふむ、それで?」
「内容はすごくシンブルなもので、僕が数年前に借りた金を返せというものでした」
「送り主が誰だか分からんと、特定も難しいだろうに」
柳生が眉を潜めると、途端に岡村が「いいえ」と頭を振った。
「送り主は弟だったんです。お菓子を買うために僕がくすねた、まだあいつが小学生時分だった頃のことを、大学生になってまで覚えていたんですよ」
人間って、結構細かいことにこだわるんですねぇ、と岡村は悟ったような顔で言った。あいつ、海洋学を学ぶために沖縄の大学に進学したんですけどね、僕と違って妙に遊び心の足りない、つまらない変人でして……
柳生は、続く彼の言葉を、己の中で『以下略』と評して食事を再開した。岡村が自分のことを棚に上げたその話は、四十分にもわたって続いた。
「突然なんですか、先生? 住所をぼかしちゃったら、返事がもらえないじゃないですか」
岡村は、まともな意見を言った。経費で飲み食い出来るうえに一泊出来るとあって、既に二本目のビール瓶に手を伸ばしている。彼はそれを不器用な手で力任せに開けて、自分と柳生のコップに継ぎ足しながらこう続けた。
「でもまあ、それに近い手紙なら、もらったことがありますよ」
神妙な面持ちでうんうんと頷き、岡村は遠い過去を思い出す風な、しみじみとした口調で言った。
「送り主の住所欄には『琉球以下略』と書かれていて、送り人名が『(笑)』でした」
それはそれで興味深い。
柳生はコップに注がれたビールを飲み、話の先を促した。
「ふむ、それで?」
「内容はすごくシンブルなもので、僕が数年前に借りた金を返せというものでした」
「送り主が誰だか分からんと、特定も難しいだろうに」
柳生が眉を潜めると、途端に岡村が「いいえ」と頭を振った。
「送り主は弟だったんです。お菓子を買うために僕がくすねた、まだあいつが小学生時分だった頃のことを、大学生になってまで覚えていたんですよ」
人間って、結構細かいことにこだわるんですねぇ、と岡村は悟ったような顔で言った。あいつ、海洋学を学ぶために沖縄の大学に進学したんですけどね、僕と違って妙に遊び心の足りない、つまらない変人でして……
柳生は、続く彼の言葉を、己の中で『以下略』と評して食事を再開した。岡村が自分のことを棚に上げたその話は、四十分にもわたって続いた。


