俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 強い日差しが照りつけているため、二人はすっかり汗だくになった。店内や車内の冷房が唯一の救いで、何度も休憩を取らねばならなかったが、柳生は若い岡村に付き合って積極的に取材した。

 それでも頭は一向に冴えるばかりで、葡萄園の主人から聞いた話や、娘から送られてきた手紙の内容ばかりが嫌でも次々に頭に浮かんで、消えてくれなかった。


――果物を育てるというのは大変なのよ。傷んでしまったり、形の悪い果物は出荷出来ないけど、それを食べられるのも私は幸せで。
――ウチの葡萄だけじゃなくて、同業者からのおすそわけもあるの。先日は、お隣さんから林檎を頂いてね…………


――お父さん、元気にしていますか? 長谷堂城跡にも、雪が積もっています。


 娘の手紙の中に『長谷堂城跡』という単語があったことを思い出したのは、すべての日程をすませた後だった。日帰りがきついスケジュールだったので、岡村と一拍する旅館の湯で汗を流し、食事をとっている時だ。

 娘は農園から見えると言っていた。そうすると、彼女は間違いなくこの県の、確実にここから比較的離れていない場所にいることにならないだろうか……?