俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 この葡萄園での取材はもう終わっていた。しかし、ここで岡村はようやく、世話になった葡萄農園の主人が「う~ん」と首を捻っている様子に気付いた。

「どうしたんですか?」

 岡村が緊張とはほど遠い表情で、美味しいと絶賛の菓子を引き続き口に放り込んでもぐもぐとさせながら、そう尋ねた。

「……ふうむ、若い連中は、ほとんど都会に出ちまっているからなぁ……。残って手伝っている子もいるが、若い夫婦なんていただろうか…………?」

 どうやら、人の良い彼まだ考えてくれていたらしい。岡村も戻ってきてしまっていることだし、柳生は苦笑して「もう大丈夫です」といってそれを断った。すると、葡萄園の主人は、困惑したように彼を見つめ返した。

「私達は同業者同士の付き合いも深いのです。私はここが地元ですし、同じ葡萄園農家だと、いろいろと面倒をみてきた若い農家も多々ありますが、都会から娘っ子が嫁いできたなんて話は、ここ十年は聞いたことがないのも不思議でして」