俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 ただ娘が、この土地のどこかに住んでいるというだけのことである。そして、元妻の現在の夫の故郷でもあるらしい。――娘からの便りに、一度そんなことが記載されていたような気がする。

 詳細はまるで分からないが、まあ別に気にしちゃいないさと、柳生はそう考え直した。自分達の人生は、同じ空の下で、それぞれ交わる事なく続いていくのだろう。 

 最後の撮影を終えた岡村が、歳に似合わぬ無垢な笑顔を浮かべて「先生ぇ」と手を振って駆け寄ってくるのが見えた。何故だか無性に張り倒したくなったが、柳生はそこをぐっとこらえて彼からの報告を待った。

「なんだ、騒々しい」
「うっふっふ、美人な店員さんにお菓子をもらっちゃいました! これ超美味しい!」
「これだから、お前は結婚出来んのだ」
「えぇ~……突然シビアな指摘をされたら戸惑いますよ~、傷つくなぁ」

 岡村はそう答えながら、菓子らしきものをもぐもぐと口にした。腕に提げている葡萄が二房入った袋に加えて、会社の経費で落とそうと企んで購入された沢山の菓子の入った袋まで追加されていた。