俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

「先生の書く小説ってなんだか暖かくて、読んでいると胸にじんわりと響いてくる言葉がたくさんあるんです。今回は気分転換がてら、いい取材ができると思うんですけどねぇ」

 岡村はそう言って、ちょっと残念そうに笑った。柳生が『砂漠の花』を発表した後に書いた小説の舞台が、東北であったことを思い出して話しているようにも取れるような発言だった。
 これまで読んだ本の内容もろくに覚えていない天然編集者にしては、案外まともな発言にも感じて、柳生は意外に思った。けれど応えることが出来ないとは、自分がよく知っているからこそ沈黙した。

 しばらくすると、彼らを乗せた新幹線は東京を抜けた。デザートまでしっかり平らげた岡村が、満足げな欠伸を一つして眠った。

 悩みのなさそうな岡村の寝顔を見ていた柳生は、次第に腹が立ってきた。岡村が「先生が食べなかったら間食用にします~」と買っていた焼き肉弁当を食べ、持って来た文庫本を開いた。

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