俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 首からデジタルカメラを下げ、半袖の薄緑のパーカーと、幅のあるジーンズを着用している岡村が、膨らんだ自身の腹をぽんと叩いてこう言った。

「やっぱり、夏はソフトクリームですよね、先生!」

 人の流れがある駅前で同意を求められても、非常に困る。確かに七月も下旬となり、日中の日差しはかなり強くなっているし夜中の風も生温く、朝はしっとりとしている。

 けれど日中に比べると、比較的過ごし易いだろうこの時間帯に、汗の玉を額に浮かべて、それを何度も拭いながらソフトクリームを幸せそうな顔で食べるやや小太りの男を、サラリーマン達は自分達と同じ大人とは認めたくないだろう。

 取材先の山形県は、いわずとも知れた果物の名産地である。日本国内で出荷されている果物のうち、出荷数は上位をキープしている。七月下旬からは葡萄狩りが行われることもあり、柳生達も今日の取材で、その様子を見せてもらうことになっていた。

 柳生は己の心の中で今の状況を受け流すことにして、岡村には適当な相槌を打ちつつ新幹線の到着を待った。予定時間ぴったりに、二人でそれに乗り込んだ。