俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

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 取材の当日が近くなると、柳生はいつも憂鬱になる。

 まず、普段から口の端にクリームをつけているような編集者の岡村と、しょっちゅう連絡を取らなければならない。彼が勝手に連絡を入れてくるのだ。そして何より、普段から時間の大半を自由に使っている生活もあってか、一日中予定でがんじがらめにされているのは窮屈だ。

 取材先の詳細について聞いたのも、当日の五日前という、彼の憂鬱がピークに達する頃であった。どうやら、またしても岡村の下準備があまりにも悠長で雑すぎたために、詳細が決定するまでに遅れが出たらしい。
 
 電話を受け取った柳生は、呆れて物も言いたくなかったが「で、どうなんだ」と、嫌々ながら受話器越しに岡村に尋ねた。聞いたおいた方が心構えは出来るし、何より岡村の先導で取材に行くとなると、全く安心など出来ないからだ。

 しかし当の岡村は、心配事などないという明るい口調で、まずは「東北で果物食べましょうね」と言ってきた。仕事の件をまずは言えと思ったし、柳生はそれを聞いて途端に行きたくなくなってしまった。