水崎の話がようやく落ち着いた頃、すっかりぬるくなった冷水を飲む彼を横目に、柳生は尋ねてみた。彼は満足した穏やかな顔でこう答えた。
「僕は幼い頃から、生物学の研究者になることを夢にみていました」
「小説家ではなく?」
「僕の一番の愛読ジャンルは、生物学の専門書なんですよ」
柳生は「なるほど」と頷いた。水崎は「立派でしょう」と肩で笑いながら言った。
キッチンの床をデッキブラシで磨いていた主人が、手を止めて呆れたような目を二人に向けたが、結局は頭を振るにとどめて作業に戻った。
カウンターの上ある、やや黄ばんだ白いプラスチチック製の小さな時御置き計は、すでに午後の十時を差していた。開け放たれたままの店の出入り口から、深い夜の気配が入り込み店内を満たし始めている。
話も途切れた二人は、宵心地にそれぞれ意識を預けて、黙って水を飲んだ。柳生はしばらく、ラジオから流れる昭和の曲に耳を傾けた。久しぶりに酒でも飲みたいな――そう思って苦笑がこぼれた。
「僕は幼い頃から、生物学の研究者になることを夢にみていました」
「小説家ではなく?」
「僕の一番の愛読ジャンルは、生物学の専門書なんですよ」
柳生は「なるほど」と頷いた。水崎は「立派でしょう」と肩で笑いながら言った。
キッチンの床をデッキブラシで磨いていた主人が、手を止めて呆れたような目を二人に向けたが、結局は頭を振るにとどめて作業に戻った。
カウンターの上ある、やや黄ばんだ白いプラスチチック製の小さな時御置き計は、すでに午後の十時を差していた。開け放たれたままの店の出入り口から、深い夜の気配が入り込み店内を満たし始めている。
話も途切れた二人は、宵心地にそれぞれ意識を預けて、黙って水を飲んだ。柳生はしばらく、ラジオから流れる昭和の曲に耳を傾けた。久しぶりに酒でも飲みたいな――そう思って苦笑がこぼれた。


