「すっかり冷めてしまったなあ」
しばらく振りに食事を再開した感想を、彼はしみじみと口にする。店主は諦めたように頭を振り、「聞いちゃいねえや」とぼやいて仕事に戻っていった。
なんとマイペースな青年であろうかと、柳生は感心しつつも掛ける言葉が見つからず、とりあえず、つまみに注文したやっこ豆腐を先に平らげた。
「先週、来てくれたお客さんですよね」
続いてラーメンをすすったところで、隣から不意に声を掛けられた。「よく覚えていたな」と柳生が答えると、水崎が優しげな顔に楽しそうな笑みを浮かべた。
「ここって、夜に来るお客さんなんて滅多にいないですから」
当人の前で失礼とも思われる台詞を、水崎が爽やかな笑顔と共にあっさり口にした。店主は、柳生の心配した目に気づいて「うちは昼間の常連が多いからさ」となんでもないように言って肩をすくめた。
「随分前から、そこいらに飲食店が増えちまって、夜のお客さんは今じゃあめっきり来なくなったんだよ。まあ、昼間には食べに来てくれるから有り難い。昔から、夜遅くにふらりとやって来てくれるお客さんもいるし、勉強の帰りに寄ってくれる学生さんもいるから、その人達のためにも、まだ開けてなきゃいけないからなぁ」
しばらく振りに食事を再開した感想を、彼はしみじみと口にする。店主は諦めたように頭を振り、「聞いちゃいねえや」とぼやいて仕事に戻っていった。
なんとマイペースな青年であろうかと、柳生は感心しつつも掛ける言葉が見つからず、とりあえず、つまみに注文したやっこ豆腐を先に平らげた。
「先週、来てくれたお客さんですよね」
続いてラーメンをすすったところで、隣から不意に声を掛けられた。「よく覚えていたな」と柳生が答えると、水崎が優しげな顔に楽しそうな笑みを浮かべた。
「ここって、夜に来るお客さんなんて滅多にいないですから」
当人の前で失礼とも思われる台詞を、水崎が爽やかな笑顔と共にあっさり口にした。店主は、柳生の心配した目に気づいて「うちは昼間の常連が多いからさ」となんでもないように言って肩をすくめた。
「随分前から、そこいらに飲食店が増えちまって、夜のお客さんは今じゃあめっきり来なくなったんだよ。まあ、昼間には食べに来てくれるから有り難い。昔から、夜遅くにふらりとやって来てくれるお客さんもいるし、勉強の帰りに寄ってくれる学生さんもいるから、その人達のためにも、まだ開けてなきゃいけないからなぁ」


