確かめたいことがあるわけでもないのに、ふと、自分の作品について語っていた青年のことが思い出された。もう一度会えるだろうかと、なんだかそんなことを思った。
その青年が店にいる保証もなく、夕刻前に口にした珈琲と菓子のせいで、それほど空腹であるというわけでもなかったが、柳生は記憶に新しいその道のりを進んだ。店が見えてくる頃には、不思議と腹が減ってきた。
食欲をそそる匂いがして、俺は腹が減っていたから、たまたまラーメン屋に入ろうとしているのだ、と、そんな口実が頭に浮かんだ。なんだか子供の言い訳にも聞こえて、自分が馬鹿のようにも思えた彼は自己嫌悪に唇を引き結び、相変わらず開け放たれているラーメン屋の古びて擦り切れた暖簾をくぐった。
狭い店内には、水崎と呼ばれていた例の青年が、前回と同じカウンターの中央席に一人で腰を落ち着けていた。やはり他に客の姿はない。
水崎の前には、半分まで食べ進められたチャーハンと餃子の皿があった。彼はカウンターの天井角につけられているラジオのスピーカーを、ぼんやりと眺めながら、レンゲの先でチャーハンの山を意味もなくつついていた。
その青年が店にいる保証もなく、夕刻前に口にした珈琲と菓子のせいで、それほど空腹であるというわけでもなかったが、柳生は記憶に新しいその道のりを進んだ。店が見えてくる頃には、不思議と腹が減ってきた。
食欲をそそる匂いがして、俺は腹が減っていたから、たまたまラーメン屋に入ろうとしているのだ、と、そんな口実が頭に浮かんだ。なんだか子供の言い訳にも聞こえて、自分が馬鹿のようにも思えた彼は自己嫌悪に唇を引き結び、相変わらず開け放たれているラーメン屋の古びて擦り切れた暖簾をくぐった。
狭い店内には、水崎と呼ばれていた例の青年が、前回と同じカウンターの中央席に一人で腰を落ち着けていた。やはり他に客の姿はない。
水崎の前には、半分まで食べ進められたチャーハンと餃子の皿があった。彼はカウンターの天井角につけられているラジオのスピーカーを、ぼんやりと眺めながら、レンゲの先でチャーハンの山を意味もなくつついていた。


