「いつも本ばかり読んでいるのね」
聞こえたのは、こちらに対して興味を持っていないような女の声だった。色気もない淡々とした口調で、とても落ち着きがあった。
本の続きも気になるというのに、その日の彼は寝不足ということもあって、喋ることに無駄に体力を使うのは嫌だと思っていたから、声を掛けられたのは不満だった。ページの文章を読むのに忙しいまま、はじめは彼女に目さえ向けなかった。
「俺が本を読んでいて、何か都合の悪いことでもあるのか」
「ないでしょうね」
「なら聞くな」
「邪魔をしたかしら。あなたのその格好、到底本を読んでいるようには見えなかったものだから」
彼女はスカートを撫でるように押さえて、そばに腰を下ろしてきた。柳生が本を読み進めながら、その気配を察して「品がない」と言うと、「これくらい普通じゃない」と答えた。その際に、白いワンピースの裾が視界の隅で揺れて、姿勢を正すような音が耳についた。
柳生は読書に没頭していたし、今、自分の横に座った女にも興味がなかった。一ページ、二ページ……けれど、女はどこにも行く様子がなく、段々と苛立ちが込み上げた。集中力が一つ二つと、彼の意思にそむいて剥がれ落ちていくのだ。
「――おい、他に座れる場所があると思うが」
聞こえたのは、こちらに対して興味を持っていないような女の声だった。色気もない淡々とした口調で、とても落ち着きがあった。
本の続きも気になるというのに、その日の彼は寝不足ということもあって、喋ることに無駄に体力を使うのは嫌だと思っていたから、声を掛けられたのは不満だった。ページの文章を読むのに忙しいまま、はじめは彼女に目さえ向けなかった。
「俺が本を読んでいて、何か都合の悪いことでもあるのか」
「ないでしょうね」
「なら聞くな」
「邪魔をしたかしら。あなたのその格好、到底本を読んでいるようには見えなかったものだから」
彼女はスカートを撫でるように押さえて、そばに腰を下ろしてきた。柳生が本を読み進めながら、その気配を察して「品がない」と言うと、「これくらい普通じゃない」と答えた。その際に、白いワンピースの裾が視界の隅で揺れて、姿勢を正すような音が耳についた。
柳生は読書に没頭していたし、今、自分の横に座った女にも興味がなかった。一ページ、二ページ……けれど、女はどこにも行く様子がなく、段々と苛立ちが込み上げた。集中力が一つ二つと、彼の意思にそむいて剥がれ落ちていくのだ。
「――おい、他に座れる場所があると思うが」


