俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

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 柳生が『砂漠の花』を書き上げたのは、大学四年生の冬だった。

 入学当初から小説を書き始めて色々な賞に応募したが、どれも選考を通ることはなかった。初めて書きあげた長編作品は、苦労して時間をかけてようやく執筆出来たものだったから、一次選考も通らなかった時のショックが一番大きかった。

 本格的に物書きになりたいと思ったのは、大学の二年生が終わる頃あたりだったろうか。そう思い始めてからの葛藤は凄まじかった。
 どうして俺は予選すら通らないのだ? 俺には、やはり才能がないのか――そう悩みながらも書き続けた。彼には、それだけしかなかったからだ。

 昔から人間関係に興味がなく、どちらかといえば嫌っていた節もある柳生は、幼少時代から本ばかりを読んで過ごしていた。威圧感がある無愛想な顔立ちと、喜怒哀楽の表現が乏しいこともあり、誤解されることも多かった。

 彼の時代には番長や不良や抗争といったことが日常的にあって、よくいちゃもんをつけられた。返り討ちにしているうちに自然と喧嘩も強くなったけれど、殴れば拳は痛いし服も汚れる。彼はそういったすべての煩わしさを嫌っていた。