俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

「でも良かったじゃないすか、水崎先輩。俺なんて進学も危ういから、ヘタしたらほんとに、このままラーメン屋に就職しなくちゃならないかもしれないんですよ」
「それは確かに、笑えない話だなぁ」

 水崎と呼ばれた青年がそう相槌を打って、明後日の方向へと目を向けつつ餃子を口に押し込んだ。

 店主が喉の奥で笑って、ニヤリとした。

「そうなったとしたら、かなり笑える話だが、まあ俺には助かる話でもあるわな」
「え~ッ、時給は安いし、お客さんで可愛い子とか滅多に来ないし、退屈過ぎて掃除の達人になっちゃいそうだし、昼と夜でアルバイトは一人ずつしかいないし、大変だから嫌っすよ」

 キッチンの中にいる若い男――アルバイト君が、大鍋を移動しながら唇を尖らせた。すると、ずっと手元を見ていた店主が、顔を上げて反論する。

「あのな、日中入っている幸太郎(こうたろう)は、アルバイトじゃなくて俺の孫だっての。実質、アルバイトはお前一人だぞ」
「しっかりタイムカードまで押して、残業代まで請求するのに?」