「タクシーでも千円もいかない距離でしたね。あ、タクシーを使う場合は、ちゃんと領収書をもらってくださいよ」
岡村がそう言い残して、柳生は店の前で彼と別れた。
◆◆◆
まだ熱帯夜になる季節でもないせいか、生温い空気の中には、まだどこか涼しげな夜風も混じっていた。裏通りへ抜けると道沿いには小さな店が並んでいて、その灯りが暗くなった道を照らし出していた。
レンタルビデオ店、煙草屋、アニメ専門店、雑貨屋、小さなアパレル店。それ以外には居酒屋やスナックが大半を占め、ひっそりと経営しているそれらの看板が通りに並び、暖かくも賑やかな光りが道の先まで続いている光景を目に留める。
裏通りは細い車道しかなかったが、時折、通り抜けて行く車や原付自動車が見られた。単身や複数で歩く人の姿が、なんとなしに柳生の目を引きつけた。
年相応の社会人カップル、いかにも会社の付き合いで飲み歩いているらしい三人のサラリーマン。近くのアパートから出て来て、表通りのコンビニにでも行こうとしているような軽装姿の娘。買い物袋を提げ、岐路を急ぐように歩く人影……
昔よく馴染んでいた、下町の賑やかさが柳生の脳裏にチラリと蘇った。裏通りだけでなく、表通りのあちらこちらにある料理店の匂いが、鼻をくすぐり始めた。
岡村がそう言い残して、柳生は店の前で彼と別れた。
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まだ熱帯夜になる季節でもないせいか、生温い空気の中には、まだどこか涼しげな夜風も混じっていた。裏通りへ抜けると道沿いには小さな店が並んでいて、その灯りが暗くなった道を照らし出していた。
レンタルビデオ店、煙草屋、アニメ専門店、雑貨屋、小さなアパレル店。それ以外には居酒屋やスナックが大半を占め、ひっそりと経営しているそれらの看板が通りに並び、暖かくも賑やかな光りが道の先まで続いている光景を目に留める。
裏通りは細い車道しかなかったが、時折、通り抜けて行く車や原付自動車が見られた。単身や複数で歩く人の姿が、なんとなしに柳生の目を引きつけた。
年相応の社会人カップル、いかにも会社の付き合いで飲み歩いているらしい三人のサラリーマン。近くのアパートから出て来て、表通りのコンビニにでも行こうとしているような軽装姿の娘。買い物袋を提げ、岐路を急ぐように歩く人影……
昔よく馴染んでいた、下町の賑やかさが柳生の脳裏にチラリと蘇った。裏通りだけでなく、表通りのあちらこちらにある料理店の匂いが、鼻をくすぐり始めた。


