見つめていると、岡村が遠慮がちに微笑んだ。いってらっしゃい、なんて言われるとは思っていなかったから、柳生はこんな時になんと言えばいいのか分からなくなってもいた。
すると曽野部が小さく微笑んで「そうね」と岡村の頭髪を乱暴に撫で、こちらを見て「いってらっしゃい」とニッコリ笑った。
詳細を一切尋ねない二人に向けて、柳生は赤い帽子をしっかりとかぶってから、ようやく返すべき言葉を思い出した。それを口にするのは、実に十年ぶりでもあった。
「――いってきます」
柳生は踵を返して、そのまま待ち合わせの場所へと向かった。
足取りは重くもないし、軽くもなかった。亡き元妻の、現在の夫と会うという実感は、ぼんやりと流れる夏の雲のようにふわふわとして頼りない。
待ち合わせ場所へと向かいながら、どうなるんだろうなぁと心の中で呟いたのは、一度や二度ではない。二人の死が現実のものとして彼の中に収まった後、世界の方がひっそりと息を潜めてしまい、まるで水の中からぼんやりと外の世界を眺めているような感覚が、柳生の中では続いてもいた。
すると曽野部が小さく微笑んで「そうね」と岡村の頭髪を乱暴に撫で、こちらを見て「いってらっしゃい」とニッコリ笑った。
詳細を一切尋ねない二人に向けて、柳生は赤い帽子をしっかりとかぶってから、ようやく返すべき言葉を思い出した。それを口にするのは、実に十年ぶりでもあった。
「――いってきます」
柳生は踵を返して、そのまま待ち合わせの場所へと向かった。
足取りは重くもないし、軽くもなかった。亡き元妻の、現在の夫と会うという実感は、ぼんやりと流れる夏の雲のようにふわふわとして頼りない。
待ち合わせ場所へと向かいながら、どうなるんだろうなぁと心の中で呟いたのは、一度や二度ではない。二人の死が現実のものとして彼の中に収まった後、世界の方がひっそりと息を潜めてしまい、まるで水の中からぼんやりと外の世界を眺めているような感覚が、柳生の中では続いてもいた。


