費用は出すというが、予算はいつもよりかかってしまうだろうし、例の億劫な気持ちが彼の頭をもたげた。いつも通り乗り気ではない柳生の反応を見て、考えておいてと彼女が言ったそばから、岡村がやってきて赤い帽子を彼に手渡した。
「何それ?」
曽野部が片眉を持ち上げると、岡村は「僕のを貸してあげる約束をしていたんですよ~」と答えた。彼女はよく分からなそうな表情を浮かべたが、勝手に入ってきた彼のニコニコとした笑顔を見て、詳細を聞かないまま正面玄関まで柳生を見送った。
じゃあな、と柳生が踵を返した時、岡村がふと陽気な声でこう言った。
「先生、いってらっしゃい」
柳生は思わず、足を止めて彼を振り返った。相変わらず、ぶん殴りたくなるような頼りのない、へらへらとした笑顔がそこにはあった。
人生、難しいことなんて一つもないと鼻唄混じりに謳歌しているようなこの男は、しかし時々、その小さな丸い瞳に辛抱強い優しさが見える時があるとも柳生は知っていた。小説を書きたくなったら、いつでもすぐ相談してください、と言うのが彼の口癖だった。
「何それ?」
曽野部が片眉を持ち上げると、岡村は「僕のを貸してあげる約束をしていたんですよ~」と答えた。彼女はよく分からなそうな表情を浮かべたが、勝手に入ってきた彼のニコニコとした笑顔を見て、詳細を聞かないまま正面玄関まで柳生を見送った。
じゃあな、と柳生が踵を返した時、岡村がふと陽気な声でこう言った。
「先生、いってらっしゃい」
柳生は思わず、足を止めて彼を振り返った。相変わらず、ぶん殴りたくなるような頼りのない、へらへらとした笑顔がそこにはあった。
人生、難しいことなんて一つもないと鼻唄混じりに謳歌しているようなこの男は、しかし時々、その小さな丸い瞳に辛抱強い優しさが見える時があるとも柳生は知っていた。小説を書きたくなったら、いつでもすぐ相談してください、と言うのが彼の口癖だった。


