俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 文学作品を書かなくなった推測については、私が一方的に慕っているからこその発想だったのかもしれません。私は作品以外の何も知らないでいるのに、この時、一人で暮らす先生の寂しげな後ろ姿を、鮮明に想像することが出来たのです。

 ひどく申し訳ない気持ちと悲しみが、私を激しく揺さぶりました。

 彼女が私に預けて出した官製ハガキが返ってきていないということは、きっと先生のもとへ届いたのでしょう。

 妻があの後、二通目の官製ハガキにペンを走らせて、結局本文を書かないまま引き出しにしまっていたことを思い出した私は、慌ててそれを探しあてると、ハガキとペンを用意して黙々と机に向かっていました。

 それは虚しいばかりの空想でした。二人が生きている別の未来を思い描き、まるで妻が生きているような文章を泣きながら書きました。けれど止められなかったのです。私が現実を受け入れたくないほど、二人を深く愛していたからでしょう。

 そのハガキを出し終えた後、ようやく私の胸に強い罪悪感が込み上げました。良心だけしかないと疑いもせずにやった自分の行為の恐ろしさに、遅れて気付いて愕然としました。