俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 私はその翌日、会社に向かう途中でそれを郵便ポストに投函しました。

 返事をもらうことが出来ないようになっていましたから、きちんと届いたのか、読んで頂けたのか、私は数日間ひどく気になって仕方がなかったのですが、娘さんは冷静でした。

「住所は変わっていないはずだから、ちゃんと届くと思うよ。だって、お母さんが『住所は書かない』って決めたことだもの。お父さんのことを一番よく知っているのは、お母さんだと思うから、きっと大丈夫だよ」

 初めて出会った時よりも、ほんの少し大人びたように微笑んだ娘さんのその時の姿を、私は未だに忘れられません。

 思えば娘さんが「私も今のうちに手紙を書いて、送った方がいいような気がするなぁ」と思案の呟きをこぼした時、それを薦めてあげれば良かったのかもしれません。

 私達は二泊三日の旅行を計画していて、その準備で忙しくもありました。妻は娘さんに、秋の中間テストはしっかり受けることと、学校を四日、週末の休日を含めると六日は休むのだから、宿題といった提出物はきちんと済ませて旅行に必要な物は準備しておきなさい、と言っていましたから。