だからみんな僕を見ていたのかなぁ、と編集者の岡村(おかむら)が呟いて、パーカーの袖で口許をごしごしと拭い始めた。
初めからチョコなんてついていなかったのだが、普段から三度の食事にケーキやチョコ菓子を食うところから推測して、ちょっとかまをかけてみただけだった柳生は眉間の皺を深めた。
この中肉の男は、またしてもケーキバイキングにでも立ち寄っていたのだろう。食べ始めると時間を忘れるか、故意に時間を無視するという、清々しいくらい自分の欲望に忠実な阿呆(おとこ)である。
「おかしいなあ。いきつけの店なのに、あの可愛い店員ちゃんは、また僕の口許のチョコを放っておいたんですかね。前もそのせいで、打ち合わせで大変気まずいことになったのに」
ふっくらとした身体を、ゆとりあるパーカーとスエットズボンで包み、頭の寝癖もそのまま堂々と外回りに出て、原稿を取りに向かったりする彼の神経を考えると、口許のチョコ一つで、大変気まずい思いをしたというのも甚(はなは)だ信じられない。
初めからチョコなんてついていなかったのだが、普段から三度の食事にケーキやチョコ菓子を食うところから推測して、ちょっとかまをかけてみただけだった柳生は眉間の皺を深めた。
この中肉の男は、またしてもケーキバイキングにでも立ち寄っていたのだろう。食べ始めると時間を忘れるか、故意に時間を無視するという、清々しいくらい自分の欲望に忠実な阿呆(おとこ)である。
「おかしいなあ。いきつけの店なのに、あの可愛い店員ちゃんは、また僕の口許のチョコを放っておいたんですかね。前もそのせいで、打ち合わせで大変気まずいことになったのに」
ふっくらとした身体を、ゆとりあるパーカーとスエットズボンで包み、頭の寝癖もそのまま堂々と外回りに出て、原稿を取りに向かったりする彼の神経を考えると、口許のチョコ一つで、大変気まずい思いをしたというのも甚(はなは)だ信じられない。


