俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 結局答えが決まらないまま、私達の小さな家族会議は、そこでお開きとなりました。娘さんは学校の宿題を終えたら早々に就寝するといって席を立ち、私は自分の部屋に行って二時間ほど読書をしてから、寝室に向かいました。

 珍しいことに、いつも一番に眠ってしまう妻が、その日はベッドに一人腰かけて私を待っていました。

「どうしたの。眠れなかったのかい?」
「手紙を出そうと思って、書いていたのよ」

 彼女は、視線を落としたまま、ぽつりと言いました。

「寂しい人だから、手紙の一つでも必要にしているんじゃないかと、そう思っただけなの」

 見せられた官製ハガキの宛先には、『柳生静』としっかり入っていました。けれど、裏面には素っ気ない文章が少し書かれているだけです。送り主の名前には彼女の名前がありましたが、住所の記載はありませんでした。

 新しい生活先の住所を書くのは、なんとなく気が引けるのだそうです。「個人情報だもの」と彼女は言い、私に「明日ついでに出してきて」と預けました。