俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

「手紙なんて出しても、あの人はきっと『なんだこれは』くらいにしか思わないわよ」
「読んでもらえれば、それだけでいいんだよ。元気にしてるよって伝えられるだけでも、私はいいと思うけどな」

 娘さんは、歯を見せて笑いました。この子は可愛らしい顔をして、なかなか少年じみた仕草を時折見せたりします。顔の雰囲気はどことなく妻に似ているのですが、性格はまるで違うようです。

 妻は、しばらく考えていました。スカートの裾を指に絡めて、ちらりと私に目を向けます。前の夫に手紙を出すなんて、はたして許されることなのだろうかと、その目は私に問いかけてもいるようでした。

「いいんじゃないかな。手紙を送ってごらんよ、アキコさん」
「あなたは、あの人のファンだからってそういう――」
「いやいやいや、誤解だよ。僕は、別にそういうのではなくて……」

 私はこの時、作家の柳生先生ではなく、彼女の元夫という点で考えていました。新しい夫として彼女と結婚しているだなんてファンレターに書いてしまったら、返って先生から不評を買うのではないか、と想像してヒヤリとしたほどです。