俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 その年の夏の終わり、私達は籍を入れて夫婦となりました。

 私の一軒家を二人は気に入ってくれて、私が暇がてら手入れをしている庭先が、特に彼女達のお気に入りのようでした。小さな畑の野菜の世話と収穫を喜び、娘さんも進んで土を触っていました。


 娘さんは、将来は農家の主人の嫁になるのだと、私によくそう言っていました。大自然に囲まれて暮らし、自分で作った果物を、毎日飽きずに食べられるような生活が夢なのだそうです。

 その為に、学業の傍ら農業について勉強している、という彼女の告白には驚かされました。当時、娘さんはまだ中学三年生でしたから、穏やかな田舎で静かな暮らしを送りたいという夢は、若い女の子が思い描く夢とは思えなかったのです。

 けれど母親であるアキコさんは、娘さんの夢に好意的で「あなたが嫁いだら、私は大きな白い犬を飼うわ」と語っていました。娘さんは小さな犬を希望しておりましたから、意見の相違から、すぐに犬を飼うという選択は見送られていました。