漫画喫茶のオープン席に人が増え始めた頃、柳生は眺めていた通りから、一人の男がガラス越しに店内を覗き込んだことに気付いた。なんとも頼りのないへらりとした表情で手を振っているその男は、仕事の件で待ち合わせをしていた相手だった。
その男は通りを歩く人々の視線も気にせず、三十代も後半の中肉中背にパーカー姿で、ガラス窓に張り付いて店内を大袈裟に覗きこみ、寝ぐせが立ったままの頭を時折左右に揺らしながら、ぱくぱくと口を開閉してこちらに合図を送ってきた。
オープン席についていた客達が、不審な男に気づいて柳生へそろりと視線を向けた。柳生は答えないまま素早く席を立つと、返却口に珈琲カップを戻して会計を済ませ、足早に店内を出た。
すると先程の男が、大型犬種の仔犬のように、身体を重そうにして走り寄ってきて「お待たせしてすみません、先生」と全く反省のない顔をにやにやとさせた。
「次の企画の件で、ちょっと話していたというか」
「口の横にチョコがついているぞ」
「え、マジっすか」
その男は通りを歩く人々の視線も気にせず、三十代も後半の中肉中背にパーカー姿で、ガラス窓に張り付いて店内を大袈裟に覗きこみ、寝ぐせが立ったままの頭を時折左右に揺らしながら、ぱくぱくと口を開閉してこちらに合図を送ってきた。
オープン席についていた客達が、不審な男に気づいて柳生へそろりと視線を向けた。柳生は答えないまま素早く席を立つと、返却口に珈琲カップを戻して会計を済ませ、足早に店内を出た。
すると先程の男が、大型犬種の仔犬のように、身体を重そうにして走り寄ってきて「お待たせしてすみません、先生」と全く反省のない顔をにやにやとさせた。
「次の企画の件で、ちょっと話していたというか」
「口の横にチョコがついているぞ」
「え、マジっすか」


