俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 私が彼女と初めて出会ったのも、ほとんど毎日通っていた書店でした。購入しなくとも、ついつい立ち寄ってしまうほど品揃えも素晴らしい本屋でしたし、おかげで自然と店員や店長の顔も覚えてしまいました。

 購入する本の数も多かったものですから、良いお客として店長には好かれていたようです。彼は確かに愛想が良く、新刊本の入荷予定を楽しげに語る男でもありました。

 恐らくは、本に対して私と同じ情熱を持った人だったのでしょう。レジ先であれだけ話せる相手というのを、私は生まれてこのかた出会ったことがありません。

 初めて彼女を見た時は、――こういっては失礼かもしれませんが、若いアルバイトが多い中で、珍しく上の年齢層だなあと思いました。

 レジの打ち方もひどく不器用で、どうも雑務に慣れていないような印象を受けました。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」が上手く言えなくて、けれど、それでも必死にやろうとする姿勢に好感を覚えました。