俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 そういえば新聞を読んでいなかったと思い出したのは、意識を没する直前のことだった。午前十時前後から始まる、やけに明るい調子の総合情報番組が始まる賑やかな声とスタート音楽で目が覚めた。

 ようやくそこで、柳生は重い足を引きずって新聞を取りに向かった。玄関でスリッパを履き換えていると、扉越しにバイクが停まる音と、郵便ポストに郵便物が届けられる気配を感じた。

 外に出て確認してみると、押し込められた新聞の上に、厚みのある茶封筒が一緒に挟みこまれていた。それを引っ張り出し、見知らぬ送り主の名に首を傾げつつ、玄関に引き返した。

 宛先名には、ハッキリと『柳生静様』とあった。字は丁寧で美しく、口の細いボールペンでバランス良く書かれている。

 柳生はリビングに向かいながら、茶封筒の裏表をしげしげと眺めた。テーブルに新聞を置いて、立ったまま無造作に封筒の口を破り開けると、数十枚にも及ぶ便箋が出てきて、彼はその冒頭を目に留め「あッ」と声を上げた。

――『奥様と娘様であると偽ったこと、誠に申し訳ございませんでした。』

 手紙の文章はそう始まっていた。封筒に記載されている字と同じで、丁寧で美しく癖はなかった。