俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 いつも娘は手紙の中で、田舎の空気はいいものだと書いていた。多くの自然に触れて、毎日多くの人と関わり生きているという。

 その生活ぶりが書き連ねられた文章は、堅苦しくなく自然体で、嫁いだ女性にしては純粋な子供心のままに書いたようで少し楽しくも読めた。離れて暮らしてようやく、なんだか彼女らしい一面に気付けたような気もした。

 妻よりもやや長い文を書く娘の手紙には、細かい番地までは書かれていなかったものの、住所は町村名までは記されていた。その住所に送れば、恐らく田舎であるし手紙は届くだろうと思われたが、やはり彼は返事を書かなかった。

 そもそも娘の手紙にも、元妻同様に、返事を期待するような文章はなかったからだ。相変わらず二人の手紙は、返事を待っていないと伝えるように、最後はいつも「元気でお過ごしください」と締められていた。