俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 柳生は、泣きながら目覚めた。夢を見たという鮮明さは途端に現実へと引き戻されて、どうにか腕を動かして涙を拭った。

 テレビでは、料理番組が始まっており、司会者の女性が年配のコックにインタビューをしているところだった。窓からは、まだ夕暮れよりも明るい日差しがあり、その光りに寝起きの目が慣れるまで少し時間が掛かった。

 ソファから上体を起こして、「夢か」と呟いた。自分の心にも鈍い己の弱さと、塗り固められた重いプライドに胸が詰まり、現実的な何かを呟かずにはいられなかった。

 そうすることで、今の自分が呼吸をし、声帯を震わせ、老いた身体を軋ませて体勢を整えていることを五感で深く意識する。日常の前では、自分は強い父親でいられることを知っていたからだ。

 柳生は、時間をかけて呼吸を整えた。額に浮かんだ脂汗を拭い、渇いた唇と喉を唾で湿らせる。薄れゆく夢の内容を思い起こして、思わず自分を嘲笑した。怨まれはしたが、想われることはなかっただろう、と。