柳生はリビングに戻ると、ソファに腰かけた。見るわけでもなくテレビをつけて、チャンネルをいくつか切り替えた。
岡村が原稿を取りに訪ねて来る予定だとは知っていた。けれど、分かってはいても次第に瞼は重くなり、彼は浅い眠りに落ちていった。
※
瞼を閉じた視界の中で、遠くから海鳴りの旋律を耳にしたように気がした。海を眺めたまま微笑んだ妻の顔と、海辺の思い出を語る水崎の穏やかな顔が脳裏を過ぎった。
転んで泣きじゃくっていた幼い我が子が瞼の裏に蘇ったかと思うと、今度は体形や髪型に気を遣い始めた中学生の彼女が、化粧をしたいと言って、父親のつまらない説教を聞かされ唇を尖らせる顔が浮かんだ。眉も整えられてすっかり少女となった娘は、化粧くらいみんなするよと、そう反論するのだ。
彼はあの時、口下手な自分が本当に嫌になって、だから口をへの字に引き結んだのだったと思い出した。母親に似てお前も可愛いのだから、ゆっくり待てばいいと、どうしてあの時言ってやれなかったのだろう。
岡村が原稿を取りに訪ねて来る予定だとは知っていた。けれど、分かってはいても次第に瞼は重くなり、彼は浅い眠りに落ちていった。
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瞼を閉じた視界の中で、遠くから海鳴りの旋律を耳にしたように気がした。海を眺めたまま微笑んだ妻の顔と、海辺の思い出を語る水崎の穏やかな顔が脳裏を過ぎった。
転んで泣きじゃくっていた幼い我が子が瞼の裏に蘇ったかと思うと、今度は体形や髪型に気を遣い始めた中学生の彼女が、化粧をしたいと言って、父親のつまらない説教を聞かされ唇を尖らせる顔が浮かんだ。眉も整えられてすっかり少女となった娘は、化粧くらいみんなするよと、そう反論するのだ。
彼はあの時、口下手な自分が本当に嫌になって、だから口をへの字に引き結んだのだったと思い出した。母親に似てお前も可愛いのだから、ゆっくり待てばいいと、どうしてあの時言ってやれなかったのだろう。


