俺の名前を呼んでくれたのは、君くらいなものだった

 書いているうちに、ふと、自分は犯人を突き止めたいわけではないとも思った。怒りや嫌悪感という激しい感情はどうも覚えていない。ただ、死んでいるはずの二人から、まるで生きていると期待てしまうような手紙が来ることが嫌なのだ。

 生きていれば、いずれは言葉を交わせる時があったのかもしれないし、愚痴の一つや二つだって、平気で酒のつまみにできただろう。そしていつか何処かで、ばったり偶然に出会う未来だって、いくらでも思い付けた。


 生きていれば、いつか彼がやっている仕事の文章を、どちらかが読んでくれていたのかもしれない。
 生きていれば、同じ空を見ている時だってあっただろう。どんよりと曇った雨空も、胸を静寂の侘しさに打つ朝やけも、壮大で美しい虹も、鮮明な夏の青も、暮れゆく黄金の日差しも……

 生きていれば、今頃二つの新しい家庭が、それぞれの人生を進んで時折、彼を思い出してくれることもあったかもしれない。
 もし、生きていてくれていれば、自分が「お爺ちゃん」と呼ばれる日があったのかもしれない。
 二人が生きてくれていれば、「ごめん」も「ありがとう」も、いつか伝えられるはずだったのに――


「…………でも、叶わないんだ」