自動扉から外へと足を踏み出した途端、軽い立ち眩みを覚えた。

 初夏に入ったばかりだというのに、まるで真夏のような気だるい空気が一気に全身をとりまいた。耳鳴りと共に頭の中がぐらぐらと揺れて、気が抜けた一瞬ばかり時間の感覚が歪む。
 建物内からこぼれ出た冷房機の涼しさと、外界の暑苦しい生温さの混じり合う空気を肺に取り込みながら、彼は立ち眩みがおさまるのをしばし佇んで待つしかなかった。

 毎年この時期はそうであるのだが、外に出た瞬間に覚える鬱屈とした感覚がなんであるのかを考えて、彼は白髪の混じり始めた眉を顰めた。

 五十歳という年齢のせいだろうか。しかし、同年代の誰もが自分と同じように悩まされているのかと想像すると、違っているようにも思えて、やはり毎度ながら納得できないでもいる。

 幼い頃は、大人になれば輝かしく素晴らしい夢余るほどの、自由の日々が待っていると思っていた。
 大人になった時は、急かされるような時間の流れに対する日々の憤りも、毒をまとって自分自身さえ傷つける愚痴の数々も、十年後にはきっと穏やかな心のままに、幸福を噛みしめる日が来るのだろうと思っていた。