天空橋が降りる夜

「天空橋は伝説であって、俺達も内容まで知らなかったのだ。この世で生を終えた者を迎えに来る橋で、登り名人達は、自らの手と足で頂上まで登りきってしまうらしい、と――お前が登っていくのを夢で見た時は、正直とても怖かったよ」

 デイビーは、ようやく天空橋の意味を悟って黙り込んだ。オーティスは掠れた声を不意に切って、そのまま口をつぐむ。

 しばらく、二人とも黙ったまま窓の向こうを見つめていた。

 ひゅうっと風が吹いて窓が揺れた。オーティスは先程、夢、といった。この世のものではない伝説だと聞かされても、やっぱりデイビーには、それだって現実のように鮮明に覚えている事で――「でも、僕は登ったんだ」そう独り言のように呟いたところで、彼は、ふと気付いて、窓ガラスに映っているオーティスと目を合わせた。

「……窓、開けないの?」
「星空が明けるまでは」

 デイビーは「そう」と言って言葉を切った。オーティスは「ああ」と答えて、再び黙り込んだ。デイビーの右手を握ったままの彼の手はかすかに震えていて、まるでここにいる事を確認するかのように力が込められていた。

「…………オーティス。とても静かな夜だね」
「ああ、静かな夜だ」

 デイビーは、オーティスの答えを聞きながら不意に悲しくなった。

「オーティス。僕は、確かに登ったんだよ。美しい水と、とても美味しい青い果物と、流れてくる星を取って、袋に入れて――」
「皆、お前の事はよく分かっているんだ」

 言葉を遮るようにオーティスが強く言った。ゆっくりとデイビーが彼を見つめ返せば、感情を押し殺せていないオーティスが、弱々しく眉根を寄せてデイビーを見つめ返してきた。

「よく分かっていて認めてもいる。六歳の頃から、ずっと村長のところで一緒に勉強して育ってきた幼馴染だ。素直になれないだけで、皆お前の良いところも悪いところも十分に分かっているのだ。そして皆、あの時、大切な事に気付いてまた一つ大人になった」