天空橋が降りる夜

 わけも分からずデイビーが老人を見つめていると、オーティスを挟んだ隣で、青年が「やぁ」と挨拶するように手を上げて、老人に笑い掛けた。

「待っている『未来の彼』によろしく。一旦さようなら、ご老人」
「ああ。コンチクショーめ、ずっと遠い未来まで帰って来るんじゃないぞ!」

 デイビーは雲に突き入る直前、皺が刻まれた老人の顔に、ああ、と安堵の微笑みが浮かぶのを見た。その熱くなった瞳は潤み、そこから美しい滴が一つ、雲の上に落ちて行く。

 老人がこちらを見て、ちょろっと照れたように手を振って唇を動かした。

――デイビー。今度は共に、この歳になるまで。

 その目の奥に宿った強い輝きの名残りを見て、デイビーは小さく目を開いた。

 オーティス……? そう開きかけたデイビーの口が、そのまま雲の中にかき消える。激しい光のぶつかり合いで視界が遮られたデイビーは、腕に感じるオーティスの大きな手以外、途端に何も分からなくなった。

 薄らいでいく意識の中で、たくさんの美しい声がデイビーに降り注いだ。「さよなら、さよなら」「また会いましょう、愛しい子」「さよなら、またいつか会いましょう」「それまでお元気で、デイビー」「また迎えに行くよ」「きっと、また会おう」……。

 ごぉーん、と頭を強く叩かれるような衝撃を、デイビーは感じた。

 記憶の奥で、誰かが「デイビー!」とひどく悲痛な声で叫んだのを思い出す。「ああ、神様!」と言って、歯が少し飛び出た少年が崩れ落ち、オーティス達が駆け寄って来る映像が、突如としてデイビーの頭の中に流れ込んできた。

 ああ、そうだった。僕は――

 デイビーは、手にオーティスの重みを感じながら、とうとう意識を手放し、どこまでも眩しい光の中へと落ちて行った。

          ◇◇◇