天空橋が降りる夜

「あなたも、梯子を登って来たのですか?」

 すると、老人は不味い物でも食べたような顔をして、デイビーを見やった。

「馬鹿を言っちゃいけない。登るのは君達のような若者だけで、わしらはカゴで引き上げてもらうのだよ」

 ああ、そうだった。すっかり忘れてしまっていた。

 デイビーは、少し恥ずかしくなって頬をかき「すみません」と謝った。登る事ばかりを考えていた自分が恥ずかしくて、小さくなって俯いた彼に、老人が呆れたように息を吐く。

「お前さんは、それを誰かと競ってでもいたのかね?」

 吐息交じりに問われて、デイビーは事実を認めて頷き返して見せた。

「はい。僕らの村で、登り名人に憧れる子は沢山いて……」
「ほぉ、登り名人? 言い伝えの名残りが、今はそうやって残っているのだな」

 老人は懐かしそうに目を細めて、ふうっと息を吐き出した。

「わしもいつかは、と思っていたが、この歳になるとさすがに登れん。お前さんなら、きっと立派に登りきれるだろうさ。しかし不思議だ、ここまで登ってきたお前さんは、もう子供達の誰よりも一番の登り名人だろう。それなのに、一体ここまで来て、誰と競おうと思ったのかね?」