天空橋が降りる夜

「ああ、そうだった。来る前に君に預けていたんだった」

 どうして忘れてしまっていたんだろう、とデイビーは不思議に思いながら、それを青年から受け取った。

 だってデイビーは、彼の事をよく知っているのだ。彼もまた、デイビーの事をよく知っている。二人は笑い合うと、合図があったわけでもなく同時に夜空を見上げた。

 空一面が、すでに厚い雲で覆われていたがデイビーは驚かなかった。

「天空橋がようやく、やって来るね」

 彼は青年に向かってそう声を投げながら、頭上に広がっていく羊の毛のような雲が続く天を仰いだ。嫌な感じもしないその雲は、もこもこと厚みを増して集まって来る。

 とうとう、もこもことした真っ白い雲が空一面を厚く覆った。白くて明るいので、デイビーはまるで夜を感じなかった。そよぐ風がぴたりと止まったのを合図に、彼は一つ頷く。

「そろそろ来るね。両手を使うのだから、これはポケットにしまわなければ」

 そう呟いて、水袋の膨らんでいる底部分からポケットに押し込んだ。大きめの袋は、ズボンの後ろポケットに、落ちてしまわないようにしっかりと両手で詰め込む。前にも一度、こうして入れたので、デイビーの手付きは随分と慣れたものだった。