天空橋が降りる夜

 ふと、どこからともなく声が聞こえ、デイビーは振り返った。何故か彼の中に驚きはなく、振り返った先にいた青年を見ても「彼がいて当然だ」としか、もう感じなくなっていた。

 デイビーは、青年の深い青の髪が、風で揺れるのをぼんやりと眺めた。

 その白く整った顔が、にっこりと笑むのを見てデイビーはようやく頷いた。

「うん、そうだね。僕は天空橋を待っているのだ」
「そう。君と僕は、天空橋を待っているんだよ」

 青年が、草木の囁きのような美しい声でそう答えた。デイビーは、天空橋を登るためにここにきた事を、当然のように思って深く頷き、それから青年と一緒になって夜空を見上げた。

 どうやって、ここまで来たのだったか思い出せない。

 でもそんなのは関係なかった。先程まで雲一つなかった夜空には、小さな雲が流れ始めている。

「登り名人は、天空橋で試されるという。僕は今日、それに登ってみせる」

 自分に言い聞かせるように、デイビーはそう呟いた。不意にオーティスの事を思い出して、青年を振り返る。