天空橋が降りる夜

「父さん達は、山羊が速度を落とした一瞬を見逃さなかった。まずはラディスが飛び出した。ばーんッという感じですごかったよ。でも距離が及ばず、そのまま地面に倒れ込んでしまってね。彼の横から私がジャンプして、山羊に覆いかぶさったわけだよ。――え? よく届いたねって? そりゃあ歳はとったが、身体の方はまだまだ現役だからね。ただ、終わったあとはお互い息が切れて、最後は大笑いさ」

 話を聞いて、デイビーは思わず口元に笑みを浮かべた。彼の父は外にいようが家にいようが、人と関わり合っていて土産話も多い。デイビーは、いつだって父からそんな話を聞くのが好きだった。

「ねぇ、父さんは、休みだろうが関係なく誰かに頼まれたらすぐに飛んで行くし、時には外を散策して困っている人がいないかって探すけれど、それはどうして?」

 ふと、デイビーは思った事を尋ねた。

 すると、父は満面の笑みを浮かべてこう答えた。

「誰かの助けになる事が、私は好きなんだ。そう思える自分もまた、誇らしい。何も出来なかった牛飼いが、人助けをしていくうちに色々な知識や技術を持つようになった、なんて、まぁ自分で言うのもなんだが、とても素敵な事だと思わないか?」

 得てやろう、と構えるのではなく、誰かにそれを分け与えなさい、と父はデイビーに続けた。デイビーは何故かほんのりと胸が温かくなり、そうして、とても泣きたくなった。

 嗚呼(ああ)。そうやって笑っている父さんが、僕はとても誇らしくて、羨ましい。

 目を細めるデイビーの向こう側で、父を呼ぶ母の声が聞こえた。僕にも出来るかな、という言葉を飲みこんだデイビーを残して、父は陽気に家の中へと入って行った。