天空橋が降りる夜

 その時、彼の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。

「いやぁ、助かりましたよ。うちの山羊は凶暴なので、あのまま逃げていたら大変でした」
「全速力で走ったんだから、今日の飯は美味いだろう。君のおかげで、私は妻の食事を一段と美味しく食べられる。ありがとう心の友よ」

 近所に住まう男と、父の声がデイビーの耳に入ってきた。デイビーが立ち上がって様子を見に行くと、男と別れた父が家へとやって来るのが見えた。

「おかえりなさい」

 どうにか笑みを浮かべて言葉をかけたデイビーに、父は威圧感の欠片さえも感じない顔で笑って「ただいま、私の可愛いデイビー」と言葉を返した。

 父はとてもお喋りなので、相槌を打つデイビーに一方的にこう喋り始めた。

「ラディスの山羊の逃走劇、お前にも見せたかったなぁ。利口すぎて困っているという話を聞かされている時、突然ばーんっと小屋の扉が飛んで、そこから例のでかい山羊が出てきたんだ。知っているだろう? あの黒交じりの毛並みした、まるで戦士のような面構えをした、いかにも『俺は負けるものか』って表情をするあの山羊だよ。――父さんとラディスは、そりゃあもう必死に追いかけてね。びっくりした人が避けていく真ん中を、山羊を追いかけて全速力で走ったんだ! 山羊が方向を変える瞬間、床屋のゼンさんがシートを投げて――」

 話しながら、父はデイビーに投げる仕草までしてみせた。