咄嗟に唇を噛みしめて咳を最小限に押し殺したものの、胃から込み上げた血液が口の端を伝うのを感じた。不審に思ったのか、後ろでスミラギが席を立つ気配を感じて、サードはここから一番近い洗面所までの道のりを素早く計算した。

 すぐに行動を開始しようとした。しかし、足の筋肉を動かした途端、抑え込んでいた発作が爆発して、サードは背を折って激しく咳込んでいた。

 咄嗟に口を手で押さえたが、吐き出した血が指の間からこぼれ落ちそうになった。スミラギが「発作ですか」と眉を顰めて、さっと動きだし、保健室に常備されている白いタオルを口へ押し当ててくる。

 外に声が響いても厄介だ。サードは、タオルを両手でしっかりと口に押し付けた。実験の際に痛覚がいじられているため、鈍い痛みしか覚えないものの、苦しさに自然と生理的な涙が浮かんだ。

 喉が焼き切れているであろうことを想像しながら、しばらくタオルで咳の音を塞いでいた。徐々に発作が収まり始め、最後は掠れた呼吸音だけが残った。