そこに制服警官がやってきてそして、青年を見つけると彼を指さして言った。
「笠置昴! またお前か!」
「やあ、こんにちは」
警察官は呆れた顔でこちらに近づくと、青年に向かって声を張り上げた。
「化け物がいると通報があって来たんだが?」
「化け物は今、ここにいませんよ」
ひょうひょうと青年は答え微笑む。
化け物……? 一体何の話……
警官は私の方を見て、怖い顔で言った。
「君も、見てないか?」
「え? ば、化け物っていったい……」
「角の生えた、鬼だと聞いた」
お、お、お、鬼?
何のことかわからずぽかん、としていると青年が言った。
「そういうわけだから、化け物はいないよ」
「う、う、う、嘘だ! そこの……そこの女が……!」
利一さんが怯えた声で言い、こちらを指さしている。
何を言ってるんだろうこの人は……!
怒りがふつふつと湧くけれど、でも青年が私を掴んでるせいで動けなかった。
「彼女がなんだって?」
不審そうな警官の声が響く。
「彼は僕の依頼人ですよ。今からお代をいただかないといけないのですが……」
「ああ、まさか踏み倒そうと……」
「ち、ち、違う! そんなこと考えてません!」
そう叫んだ利一さんは、慌てて立ちあがり、そしてこちらに近づくと青年にお金を押し付け、逃げるように人混みの中に消えていった。
……何だったんだろう、あれ……
呆然としていると、警官の声が響いた。
「笠置昴! 妙な騒ぎは起こすなよ、まったく……」
「ええ、わかってますよ」
警官が去り、私は青年に連れられてその場を離れたけれど、すぐに彼は立ち止まりこちらを振り返り言った。
「そういうわけでお嬢さん。僕はこれで」
と言い、私の腕を離す。
「え、ま、ま、待ってください!」
今度は私が彼の腕を掴み、その顔を見つめて言った。
「お願いします! 私を連れて行ってください!」
「……え?」
ものすごく困った顔をして、青年は半歩下がる。
「私、行く宛ないんです! さっき祓い師とか言ってましたよね? 私を雇ってください、お願いします!」
祓い師がなんなのかわからないけど、依頼人とか言ってたし探偵みたいなやつだろうか。
店にも帰れないし、家もない、知り合いもいない今、私が頼れるのは彼しかいない。
「えーと、どうしよう……僕は女の子の扱い、わかんないんだよね……」
「それでも大丈夫です! お願いします! 何でもしますから!」
「あー、女の子が安易にそういうことを言っちゃ駄目だよ」
慌てた様子で言い、彼は深いため息をついてそして、諦めたように言った。
「わかったよ」
「ありがとうございます!」
よかった……とりあえず雨風は凌げそうだ。
「とりあえず、ついておいで」
と言い、青年は私に腕を掴まれたまま雑踏の中を歩き出した。
連れてこられた場所に私は戸惑った。
どう見てもここは遊郭……花街だ。
え、これってどういうこと……?
格子のむこうに着飾った女性たちがいて、三味線を弾いたりこちらに手を振ったりしてる。
もしかして私、遊郭に売られる……?
「え、あ、あ、あの……」
「僕じゃあ君の面倒は見きれないから、詳しい人に手伝って貰おうと思って」
そう淡々と言い、彼はある遊郭に入っていった。
こういうところに入るのは初めてで、私はおろおろしつつ店内を見回す。
私と同じ年頃と思われる女の子たちが、着飾りかるたをしたり、歌を歌ったり、楽しそうに談笑している。
遊郭ってもっと仄暗い印象があったけれど彼女たちからそんな雰囲気は感じなかった。
「ねえ、京佳はいる?」
と、店の人に伝えるとしばらくして、紅色の着物をまとった綺麗な女性が出てきた。
綺麗に結われた黒い髪。はだけた胸元が艶めかしい。
「あら昴さん、女連れだなんて珍しい」
「頼みがあるんだ。彼女に合う服を見繕ってほしい」
と言い、彼は遊女にお金を渡した。
「あらあら……」
「しばらく生活するための服と、あと他に必要なものを用意してくれないか。僕ではどこに行けばいいか何もわからないから」
「貴方らしいわね。高く付くわよ?」
「わかってる」
「着替えてくるからちょっと待っていて」
そう告げて、彼女は奥へと消えていった。
おろおろしつつ私は昴さんを見ると、彼は私と視線を合わさずに言った。
「僕では本当にわからないんだ。君に着られる服がどこに売ってるかなんて。金はさっきの男からもらっているから気にしなくて大丈夫だよ」
さっきの男……利一さんのことか。
昨日のことを思い出すと嫌だけど、さっきの怯えた顔を見てわりと心はすっきりしている。
にしても化け物って一体何のことだったんだろう?
しばらくすると、洋装に着替えた京佳さんが戻ってきた。
ワンピースっていうのかな。
それに、大きな鞄を肩に下げている。
京佳さんは私の前に立つと、微笑み言った。
「私は京佳。よろしく」
「あ、えーと……かなめ、といいます」
なんだが眩しくて、つい下を向いてしまう。
「とりあえず、買い物の前にお風呂に行こうか?」
と言われ、私は驚きばっと顔を上げた。
「え、あ……お、お風呂?」
「ええ、とりあえずお風呂に入って、着替えてそれから買い物に行きましょう。服は持ってきたから大丈夫」
そして京佳さんは私の腕をがしり、と掴んだ。
「笠置昴! またお前か!」
「やあ、こんにちは」
警察官は呆れた顔でこちらに近づくと、青年に向かって声を張り上げた。
「化け物がいると通報があって来たんだが?」
「化け物は今、ここにいませんよ」
ひょうひょうと青年は答え微笑む。
化け物……? 一体何の話……
警官は私の方を見て、怖い顔で言った。
「君も、見てないか?」
「え? ば、化け物っていったい……」
「角の生えた、鬼だと聞いた」
お、お、お、鬼?
何のことかわからずぽかん、としていると青年が言った。
「そういうわけだから、化け物はいないよ」
「う、う、う、嘘だ! そこの……そこの女が……!」
利一さんが怯えた声で言い、こちらを指さしている。
何を言ってるんだろうこの人は……!
怒りがふつふつと湧くけれど、でも青年が私を掴んでるせいで動けなかった。
「彼女がなんだって?」
不審そうな警官の声が響く。
「彼は僕の依頼人ですよ。今からお代をいただかないといけないのですが……」
「ああ、まさか踏み倒そうと……」
「ち、ち、違う! そんなこと考えてません!」
そう叫んだ利一さんは、慌てて立ちあがり、そしてこちらに近づくと青年にお金を押し付け、逃げるように人混みの中に消えていった。
……何だったんだろう、あれ……
呆然としていると、警官の声が響いた。
「笠置昴! 妙な騒ぎは起こすなよ、まったく……」
「ええ、わかってますよ」
警官が去り、私は青年に連れられてその場を離れたけれど、すぐに彼は立ち止まりこちらを振り返り言った。
「そういうわけでお嬢さん。僕はこれで」
と言い、私の腕を離す。
「え、ま、ま、待ってください!」
今度は私が彼の腕を掴み、その顔を見つめて言った。
「お願いします! 私を連れて行ってください!」
「……え?」
ものすごく困った顔をして、青年は半歩下がる。
「私、行く宛ないんです! さっき祓い師とか言ってましたよね? 私を雇ってください、お願いします!」
祓い師がなんなのかわからないけど、依頼人とか言ってたし探偵みたいなやつだろうか。
店にも帰れないし、家もない、知り合いもいない今、私が頼れるのは彼しかいない。
「えーと、どうしよう……僕は女の子の扱い、わかんないんだよね……」
「それでも大丈夫です! お願いします! 何でもしますから!」
「あー、女の子が安易にそういうことを言っちゃ駄目だよ」
慌てた様子で言い、彼は深いため息をついてそして、諦めたように言った。
「わかったよ」
「ありがとうございます!」
よかった……とりあえず雨風は凌げそうだ。
「とりあえず、ついておいで」
と言い、青年は私に腕を掴まれたまま雑踏の中を歩き出した。
連れてこられた場所に私は戸惑った。
どう見てもここは遊郭……花街だ。
え、これってどういうこと……?
格子のむこうに着飾った女性たちがいて、三味線を弾いたりこちらに手を振ったりしてる。
もしかして私、遊郭に売られる……?
「え、あ、あ、あの……」
「僕じゃあ君の面倒は見きれないから、詳しい人に手伝って貰おうと思って」
そう淡々と言い、彼はある遊郭に入っていった。
こういうところに入るのは初めてで、私はおろおろしつつ店内を見回す。
私と同じ年頃と思われる女の子たちが、着飾りかるたをしたり、歌を歌ったり、楽しそうに談笑している。
遊郭ってもっと仄暗い印象があったけれど彼女たちからそんな雰囲気は感じなかった。
「ねえ、京佳はいる?」
と、店の人に伝えるとしばらくして、紅色の着物をまとった綺麗な女性が出てきた。
綺麗に結われた黒い髪。はだけた胸元が艶めかしい。
「あら昴さん、女連れだなんて珍しい」
「頼みがあるんだ。彼女に合う服を見繕ってほしい」
と言い、彼は遊女にお金を渡した。
「あらあら……」
「しばらく生活するための服と、あと他に必要なものを用意してくれないか。僕ではどこに行けばいいか何もわからないから」
「貴方らしいわね。高く付くわよ?」
「わかってる」
「着替えてくるからちょっと待っていて」
そう告げて、彼女は奥へと消えていった。
おろおろしつつ私は昴さんを見ると、彼は私と視線を合わさずに言った。
「僕では本当にわからないんだ。君に着られる服がどこに売ってるかなんて。金はさっきの男からもらっているから気にしなくて大丈夫だよ」
さっきの男……利一さんのことか。
昨日のことを思い出すと嫌だけど、さっきの怯えた顔を見てわりと心はすっきりしている。
にしても化け物って一体何のことだったんだろう?
しばらくすると、洋装に着替えた京佳さんが戻ってきた。
ワンピースっていうのかな。
それに、大きな鞄を肩に下げている。
京佳さんは私の前に立つと、微笑み言った。
「私は京佳。よろしく」
「あ、えーと……かなめ、といいます」
なんだが眩しくて、つい下を向いてしまう。
「とりあえず、買い物の前にお風呂に行こうか?」
と言われ、私は驚きばっと顔を上げた。
「え、あ……お、お風呂?」
「ええ、とりあえずお風呂に入って、着替えてそれから買い物に行きましょう。服は持ってきたから大丈夫」
そして京佳さんは私の腕をがしり、と掴んだ。