「これ、プレゼント」

 (みなと)はぶっきらぼうに言って、リュックから黄色い紙袋を取り出す。

「えっ、あ、ありがとう……」

 驚きの色を滲ませたまま、駿(しゅん)はそれを受け取り、リュックに入れる。

「あのさ、なんでプレゼントくれんの?俺、お前に何かあげたっけ?」

 駿は不思議そうに首を傾げた。湊はにっこりと笑う。

「くれたよ。ほら、あの銀杏のしおり」

「ああ。けど、あんなのだけど、良かったの?」

「うん、嬉しかったよ」

 並んで歩く湊は、駿の方を見て微笑みを浮かべた。

「へぇー、あんなの貰って嬉しいんだ」

 駿が呟いた。どちらかと言うと、からかいよりも疑問を含んだ声で。

「別に、誰からでも嬉しいってわけじゃないよ」

「えっ?」

 湊がポツリとこぼした声に、駿は目を見開いて足を止めた。湊も同じく、その場で止まる。彼女の顔を下を向いており、少しだけ、口の端が普段よりも吊り上がっていた。

「なんか、言った?」

 駿は湊に尋ねた。自分が聞こえた声が、聞き間違いかもしれない。そんな思いで。だけど、湊は駿に背を向けて歩き出した。

「え、ちょ、湊!」

 駿は彼女の名前を呼んだ。確かにここから駿と湊が向かう先は違うけど、こんな別れ方はない。

 すると、湊は数メートル歩いた後で立ち止まる。そして、勢いよく振り返った。冷たい風が吹きつけた。湊の髪の毛を揺らして、彼女のマフラーが浮き上がる。枝に残った紅い枯れ葉を落として、秋らしい演出を見せる。

 湊は満面の笑みで駿を見ていた。瞳をキュッと細くして、三日月型に唇を上げて、頬を紅葉と同じ色にして、完璧な笑みで。

「私、好きな人にもらったものなら何でも嬉しいから」

「……へっ?」

 彼女が大声を発して数秒後、硬直していた駿の口から出たのは、そんな、間の抜けた声だった。

「ちょ、それ、どういう……」

「じゃあね。誕生日おめでとう」

 駿が何かを言い終えないうちに、湊は彼に手を振って、道を駆け出した。

 残された駿は、なんとも言えない余韻にしばらく動くことができなかった。