髪だって校則で許されてる範囲から外れてる。地毛ってことにしてるけど。メイクだって、バレない程度に書いてる。友達は気づいて、いいねって褒めてくれた。

 先生たちは私たちが化粧をすると目の色を変えて、「高校生なのに!」と叱る。その癖、私の薄く塗られたアイシャドウにも、マスカラにも気づかない。気づかないなら撤廃すればいいのに、っていつも思ってた。

 化粧は自分らしく表現できる好きなことだから、やめたくなくてこっそりバレない程度に毎日している。だから、そんな化粧品を作ってみたい思いが強かった。

 でもそれも、みんなには冗談と捉えらる。本気だよ、と返せば「私らしくもない」という言葉だけが送られた。

 何度も両親に話せば結果は違っていたのかもしれない。

 お父さんもお母さんも、就職のために大学には行きなさいとは言うものの、研究をしたいと言う言葉には耳を貸してくれなかった。「なれないから」「そんなの今だけだから」「冗談でしょう?」「あなたには無理よ」そんな言葉だけで、私の夢は追い払われる。

 だったら、私は何を目指せば良いの。やりたいことを選べないなら、何を選べば良いの。

 本を見つけられずに深いため息だけがこぼれ落ちる。勉強だって得意じゃない。それでも、頑張ろうと思ったのに。

 しおしおと萎れた気分のまま、しゃがみこむ。

「あれ、気分悪くなりました?」

 いつのまにか近くに来ていた先生が、しゃがみこんで私も目線を合わせてくれる。慌てて首を横に振れば、見つからないから落ち込んでると思ったのかメモ帳を取り出して質問を始めた。

「何を探してるんですか? やっぱり一緒に探しますよ」
「いいんです、もう」

 諦められなくて自分で方法を探しに来たのに、それでも諦めようとしている自分がいる。

「もう、って、良くないってことですよ」
「はい?
「自分に言い聞かせてるだけでしょう、それ」

 なんでもお見通しです、みたいな顔で説教垂れる他の先生方とかぶって見えた。つい、反発して口調を荒げてしまう。

「先生に何がわかるんですか」
「わかりませんね」

 煽るような言葉に苛立ちが募って、このまま本とかを投げ飛ばしてやりたい。そんな衝動に駆られた。

「わからないので、聞きますよ」
「なにそれ」
「わからないことはわからないです。まぁ、想像つく範囲の物事もありますが、わかるためには読み込む、理解することが必要なんですよ」

 よくわからない言葉を並べ立てる先生に、つい、笑ってしまう。変な先生だ、この人。

「なんか、授業の時と雰囲気違いますね」
「よく言われます。先生、向いてないんですよね僕。先生やっといてなんですが」
「なんで先生やってるんですか」
「それはもちろん、手に職だからですね。食いっぱぐれないですし。僕得意なこととかあんまりないので。本も好きだったので、国語の教師になっておこーくらいですよ」

 大人というものは、大体「どうしてその仕事を?」と聞けば、大層立派な子供の頃からの夢を語ってくれるものだと思っていた私は、肩透かしを喰らう。手に職で食いっぱぐれないから、なんて、ましてや、先生が言うことじゃない。

「進路のお悩みですか?」
「だいたいそう」
「本を探すよりもまずは聞いた方が良さそうですね。僕の秘密の部屋に招待しましょう、特別ですよ」