ちゃぽん。
川の中で魚が跳ねたのか水面が波打つ。
「ねぇ、グロー。ここ釣れなくない?」
「そっすね。魚はもっと上流の方がいいかも」
「移動する? 釣れないと今晩ご飯なしだよ?」
のんびりと魚釣りをしていた私とグローは立ち上がり上流へ移動を始める。
「ミロは? 今日に限って何でお留守番?」
「さぁ? あいつ元第五だし普段から怪しいっす。こんなド田舎で足音消してるんすよ? 団長もあんまり信用しない方がいいっすよ」
「また? 今度は何でケンカしたの? あなた達はいつも悪口言う時はケンカした時だよね?」
「そっすか? 気のせいじゃないっすか? あいつは常に嫌なやつっす」
私達は今、田舎? にいる。正直どこの辺境なのか、どこの国なのかさえもわからない。近所は歩いて三〇分かかる老夫婦の家が一軒だけだ。
あの日、ユーキさんと共に転移した先は、ユーキさんの王都のタウンハウスだった。その後、最小限の身の回りの物を持って一時間もしない内に転移、また転移と次々に転移しまくってここにやって来た。私は最初の三日間は寝込んでいたので覚えていない。ユーキさんは何も話さず何事もなかったかのように、料理をしたり薪を割ったりと、移って来たこの小屋で私の世話を焼いてくれた。側から見たら新婚夫婦だよ。
そしてその十日後、次はグローとミロがこの地にやって来る。ユーキさんは『たっぷり休め。有給休暇だ』と言ってさっさと転移して去って行った。で、その後はこの二人とここでの生活が始まったのだ。
それからまた一週間した頃、グローとミロがポツリポツリとその後の事を話してくれた。
『俺達が王都にいたのはあの事件も含めて二日間なので詳細はわかりませんが…』と。
グローはあの事件の夜、総団長に呼ばれ逃亡中の私を警護するように命令される。副団長なのだし、あの日の事を一部始終知っているのはグローだからと頼まれたそうだ。それで準備をしていたらミロが『私も行く』と総団長に直談判をしたそうだ。
総団長はミロが誰の命令で動いているか察していたようで『その任務を降りるなら許可する』と言ったそうだ。当然、諦めると思っていたがミロは『三〇分下さい』と言って、相手を説得し総団長の元へ戻ってきた。その時に片目に傷を負ってしまった。今は、眼帯をつけている。
『あの王女様ですが翌日に処刑されました。当然です。あと、スラム街の住人は保護されて、今西の教会が彼等の棲家になっています。衰弱していましたが今後は元気になるかと』
『そう…』
ドーンの事聞きたいけど… でも…
『あっ。ドーン殿は元気になったぽいっす。俺は聞いただけなのでアレですが… 騎士団の医療施設に入院したって聞いたっす』
グローありがとう。
『うん』
『… あの日、団長が女神様を降臨させて王都は大騒ぎです。早急に第五の影が国の方々に散りました。それで… 王女が処刑されたその後すぐに総団長は牢に入れられました。俺達はその日の夜中、騎士団を抜け出しここにやって来たんです』
『うそ! 総団長! 何で!!!』
グローとミロは顔を見合わしてすまなさそうに話してくれた。
『『女神降臨をやってのけ、死にかけ… 死んでいた騎士を蘇らせた光魔法の使い手、女神様の使徒を逃した罪』です』
『私のせい! って、ドーンが死んでいた? いやいや死にかけてはいたけど… 生きてたよ? それにあれは女神様の』
『周りにいた我々は遠目でしかあの時は確認出来ませんでしたし。あの光り輝く光景プラス女神様です。すごい光魔法でした… あとは、他の作戦に参加した騎士から『団長が手をかざしていた』と続々と報告が出ていて… それで、ドーン殿自身が…』
『ドーンが何? まさか回復しきれてないとか?』
また二人は顔を見合わせる。ミロがそっと懐から手鏡を出した。
『団長。自分の顔を見て下さい』
私の顔が何?
『…っ』
『そうです。団長は偉大な力を使った反動なのか… 年をとっています。恐らくですが十歳ほど。今は二十代後半でしょうか?』
私は自分の顔をペタペタと触る。目尻にシワが一本。え~、顔が… 私が呆気に取られている横で話はまだ続いた。
『それで… ドーン殿は… 十歳ほど若返りました。私が王都を出る際にこの目で確認済みです。元同僚のツテで協力者がいてですね… ドーン殿の病室は厳戒態勢でしたが、髪が黒くなり、顔のシワが… 若返っていました。
この事があって、陛下はどうしても団長を、団長の能力を探されています。そして、総団長はあの現場で、その能力とドーン殿と団長の顔を見たからこそ、早急に逃したんだと予想されます。団長は総団長のお気に入りでしたからね。総団長は陛下に対し、国に対し黙秘し続けています。あと、陛下は団長が老けていると知りません。我々もここに来て団長の顔の件は初めて知りました』
今回の女神様の代償は『私の十年分の生命力をドーンに』って事か。それはそうか。死にかけた人を助けたんだから。いくら女神様の力添えがあっても普通の回復魔法じゃ無理か。
『そっか… ユーキさんは大丈夫かな? あの後帰ったでしょう?』
『俺らがわかる範囲の情報は話したっす。下手の事はしないっしょ。それにユーキ団長は無敵だし』
ユーキさんも総団長も申し訳ない。う”~。
『で? 総団長は処刑とかされないよね?』
『それはないかと… ただ黙りなので。陛下は手を焼いているのでは? はっきり言って何の罪で入っているのか微妙です。逃亡補助? でもラモン団長は犯罪者じゃないですし。命令違反? そもそも作戦の指揮官は総団長です。団長が『勝手に逃げた』って言えばそれまでですし』
『ははは、それはない。あの場でユーキさんに命令したのは総団長なんだし』
『まぁ、今の所は処刑されると言う報告は来てませんのでご安心を』
『はぁ? お前報告って! 誰と通じてんだ! まさか第五か? えぇ?』
グローはミロの胸ぐらを掴んでブンブン揺さぶっている。
『アホか。私は団長の味方だ。何の為にわざわざ第五を抜けたんだ。この傷で分かるだろうが! 私には従順な協力者がいるって事だよ、お前と違って人望はあるからな』
『んだと~!』
と、いつもの様にケンカを始める二人。
ふ~。そんな事があって今に至る。
そう、私は今『異世界でスローライフ』中なのだ。はは。
川の中で魚が跳ねたのか水面が波打つ。
「ねぇ、グロー。ここ釣れなくない?」
「そっすね。魚はもっと上流の方がいいかも」
「移動する? 釣れないと今晩ご飯なしだよ?」
のんびりと魚釣りをしていた私とグローは立ち上がり上流へ移動を始める。
「ミロは? 今日に限って何でお留守番?」
「さぁ? あいつ元第五だし普段から怪しいっす。こんなド田舎で足音消してるんすよ? 団長もあんまり信用しない方がいいっすよ」
「また? 今度は何でケンカしたの? あなた達はいつも悪口言う時はケンカした時だよね?」
「そっすか? 気のせいじゃないっすか? あいつは常に嫌なやつっす」
私達は今、田舎? にいる。正直どこの辺境なのか、どこの国なのかさえもわからない。近所は歩いて三〇分かかる老夫婦の家が一軒だけだ。
あの日、ユーキさんと共に転移した先は、ユーキさんの王都のタウンハウスだった。その後、最小限の身の回りの物を持って一時間もしない内に転移、また転移と次々に転移しまくってここにやって来た。私は最初の三日間は寝込んでいたので覚えていない。ユーキさんは何も話さず何事もなかったかのように、料理をしたり薪を割ったりと、移って来たこの小屋で私の世話を焼いてくれた。側から見たら新婚夫婦だよ。
そしてその十日後、次はグローとミロがこの地にやって来る。ユーキさんは『たっぷり休め。有給休暇だ』と言ってさっさと転移して去って行った。で、その後はこの二人とここでの生活が始まったのだ。
それからまた一週間した頃、グローとミロがポツリポツリとその後の事を話してくれた。
『俺達が王都にいたのはあの事件も含めて二日間なので詳細はわかりませんが…』と。
グローはあの事件の夜、総団長に呼ばれ逃亡中の私を警護するように命令される。副団長なのだし、あの日の事を一部始終知っているのはグローだからと頼まれたそうだ。それで準備をしていたらミロが『私も行く』と総団長に直談判をしたそうだ。
総団長はミロが誰の命令で動いているか察していたようで『その任務を降りるなら許可する』と言ったそうだ。当然、諦めると思っていたがミロは『三〇分下さい』と言って、相手を説得し総団長の元へ戻ってきた。その時に片目に傷を負ってしまった。今は、眼帯をつけている。
『あの王女様ですが翌日に処刑されました。当然です。あと、スラム街の住人は保護されて、今西の教会が彼等の棲家になっています。衰弱していましたが今後は元気になるかと』
『そう…』
ドーンの事聞きたいけど… でも…
『あっ。ドーン殿は元気になったぽいっす。俺は聞いただけなのでアレですが… 騎士団の医療施設に入院したって聞いたっす』
グローありがとう。
『うん』
『… あの日、団長が女神様を降臨させて王都は大騒ぎです。早急に第五の影が国の方々に散りました。それで… 王女が処刑されたその後すぐに総団長は牢に入れられました。俺達はその日の夜中、騎士団を抜け出しここにやって来たんです』
『うそ! 総団長! 何で!!!』
グローとミロは顔を見合わしてすまなさそうに話してくれた。
『『女神降臨をやってのけ、死にかけ… 死んでいた騎士を蘇らせた光魔法の使い手、女神様の使徒を逃した罪』です』
『私のせい! って、ドーンが死んでいた? いやいや死にかけてはいたけど… 生きてたよ? それにあれは女神様の』
『周りにいた我々は遠目でしかあの時は確認出来ませんでしたし。あの光り輝く光景プラス女神様です。すごい光魔法でした… あとは、他の作戦に参加した騎士から『団長が手をかざしていた』と続々と報告が出ていて… それで、ドーン殿自身が…』
『ドーンが何? まさか回復しきれてないとか?』
また二人は顔を見合わせる。ミロがそっと懐から手鏡を出した。
『団長。自分の顔を見て下さい』
私の顔が何?
『…っ』
『そうです。団長は偉大な力を使った反動なのか… 年をとっています。恐らくですが十歳ほど。今は二十代後半でしょうか?』
私は自分の顔をペタペタと触る。目尻にシワが一本。え~、顔が… 私が呆気に取られている横で話はまだ続いた。
『それで… ドーン殿は… 十歳ほど若返りました。私が王都を出る際にこの目で確認済みです。元同僚のツテで協力者がいてですね… ドーン殿の病室は厳戒態勢でしたが、髪が黒くなり、顔のシワが… 若返っていました。
この事があって、陛下はどうしても団長を、団長の能力を探されています。そして、総団長はあの現場で、その能力とドーン殿と団長の顔を見たからこそ、早急に逃したんだと予想されます。団長は総団長のお気に入りでしたからね。総団長は陛下に対し、国に対し黙秘し続けています。あと、陛下は団長が老けていると知りません。我々もここに来て団長の顔の件は初めて知りました』
今回の女神様の代償は『私の十年分の生命力をドーンに』って事か。それはそうか。死にかけた人を助けたんだから。いくら女神様の力添えがあっても普通の回復魔法じゃ無理か。
『そっか… ユーキさんは大丈夫かな? あの後帰ったでしょう?』
『俺らがわかる範囲の情報は話したっす。下手の事はしないっしょ。それにユーキ団長は無敵だし』
ユーキさんも総団長も申し訳ない。う”~。
『で? 総団長は処刑とかされないよね?』
『それはないかと… ただ黙りなので。陛下は手を焼いているのでは? はっきり言って何の罪で入っているのか微妙です。逃亡補助? でもラモン団長は犯罪者じゃないですし。命令違反? そもそも作戦の指揮官は総団長です。団長が『勝手に逃げた』って言えばそれまでですし』
『ははは、それはない。あの場でユーキさんに命令したのは総団長なんだし』
『まぁ、今の所は処刑されると言う報告は来てませんのでご安心を』
『はぁ? お前報告って! 誰と通じてんだ! まさか第五か? えぇ?』
グローはミロの胸ぐらを掴んでブンブン揺さぶっている。
『アホか。私は団長の味方だ。何の為にわざわざ第五を抜けたんだ。この傷で分かるだろうが! 私には従順な協力者がいるって事だよ、お前と違って人望はあるからな』
『んだと~!』
と、いつもの様にケンカを始める二人。
ふ~。そんな事があって今に至る。
そう、私は今『異世界でスローライフ』中なのだ。はは。