「ど、どうしよう! ドーンさん!」

「まずは魔法陣を… 破壊するぞ」

 ドーンは火魔法で光っている魔法陣の輪郭を焼こうとしている。が、効かない。

「魔力が… 私より多いやつが描いた?」

 そうなの? そんなルールなの?

「じゃぁ、私が!」

「は? ラモン殿… あなた、先程自分で魔力量が少ないと言ってなかったか?」

 はっ! そうだった… でも可能性があるなら試してみるべきだよね。

「いや~。物は試しって事で… へへへ」

「へへへって。遊びじゃないんだぞ!」

 ドーンはちょっとキレ気味に蔑んだ目で見てくる。う”~。

 私はチラッとドーンを確認しながら勝手に水魔法で魔法陣を攻撃してみた。

『バ~ン』

 と、大きな音と共に魔法陣の光が揺らぐ。

 イケる!

 私は次々と水魔法で魔法陣を攻撃する。

 ドーンとグルー、ミロは呆気に取られて、無言で私の様子を見ている。

「っ… ラモン殿。そのまま輪郭を! 一部でいいから壊すんだ!」

 ドーンは私の横に来て周りを見渡しながら私の護衛に回ってくれた。

「グロー、ミロ。周辺を警戒しろ! 中衛が前衛に続いて行ってしまった以上、ここは私達でどうにかするしかない。第五の影が数人残ってくれた!」

 私達が居る対面に数人の第五の腹面が立って魔法陣を囲んでいる。この場にいるのは私達を含めて十名ほどしかいない。

 と、その時、魔法陣の中の人達がピクピクと動き出した。痙攣(けいれん)しているように見えるが目は開いていない。依然、眠っているように見える。

「え? 何で?」

 まるでマリオネットの様に糸で釣られた人形のような、カクカクした動きで次々と立ち上がって私達に向かってゆっくり歩いて来る。

「チッ。魔法陣が完全に発動してしまったか… ラモン殿はそのまま魔法陣を壊す事だけを考えろ。私が必ず守ってみせる」

 うっ。キュン。

 こら、キュンしちゃダメだろ私!

「はい!」

「動きを止めろ! 恐らく攻撃はして来ないだろうが… 手段は各自に任せる。絶対に殺すなよ!」

 ドーンが大声で命令すると、第五がの人達が『シュッ』と消えた。ミロみたい! ってミロは元第五だった。

 第五の覆面は、次々とすごいスピードで操られている人達の首の後ろに手刀をかまして倒しているが、倒しては立ち上がりを繰り返している。

 追いつかないじゃん。これじゃ。

 私の方にも何人か近寄って来たが、ドーンが素早く薙刀の柄で間合いを取りつつ打身を当てている。が、こちらも倒れてはまた立ち上がりを繰り返していた。

「殺せない、すぐ立ち上がるじゃぁ… 埒があかねぇ!」

 と、焦り声でグローが叫ぶ。

「グロー、絶対に教会の外に出すなよ!」

「分かってるっす!」

 みんな必死に戦っている。

 私は魔法攻撃で魔法陣を攻撃するも、輪郭が… 壊すのに時間がかかりそうだ。

「ラモン殿、まだか?」

「あと少しです。あと数センチ…」

 魔法陣の輪郭があと少しで壊れそうって時に、教会の入口からかわいい声が聞こえた。

「あら? 儀式が… 邪魔が入ったのね。ふ~、もう! 残念だわ~」

 魔法で攻撃しながら振り返ると、王女が連れを二人連れて教会の入口に立っている。

「ドーンさん、あれ!」

「あぁ… 来たか。第五の、誰か総団長に伝令に走れ」

 第五の一人が手を挙げてその場で消えた。

 みんなはゆっくりだがまだ襲って来ている人を相手にしながら、手一杯状態で王女の出方を様子見している。

「ふ~ん。あら? またあなた? いつも邪魔ばっかりして、困った方ね~」

 と、私を見つけると王女は連れている二人に耳打ちした。すると、その二人が勢いよく私に向かってくる。げっやっぱり。

『カキ~ン』と、ドーンが私の前で向かって来た二人を薙刀で止めてくれた。

「ドーンさん!!!」

 私は魔法陣を壊すのを一旦止め十手を手に取った。よし来い!

「忌々しい。いつもあなたの横にはその男がいるわね。何様よ! アレクお兄様といい! イケメンばっかり! 地味子のくせに生意気!」

 地味子って。悪口反対!

 王女は額に怒りマークをつけた顔で入口から私の方へ歩いて来る。ドレスなのでチョコチョコとかわいい足取りだ。そして何故か操られている人達は王女に手を出さない。

「なぜ王女様には攻撃しないの?」

「ははははは。それは私があの魔法陣を描いたからよ~。私がこの子達のご主人様なの」

「は? でもあれは『女神降臨』の再現の魔法陣では?」

「ぷっ。あはははは。『女神降臨』って! 私は闇属性よ。そんなの無理に決まってるじゃない。てか、あなたも初代国王の日記を読んだの? やっぱりあなたも転生者なのね? あの小説のキーアイテムをちゃんと知ってるじゃない。あの時『知らない』なんて言って、いっぱい食わされたわ~」

「いやいや。転生? と言うか多分王女様が言う通り、私には『地球の日本』の記憶はありますよ? でも私はそんな小説の題名… あっちの世界で異世界転生モノの小説は読んだ事がないんだけど?」

「はぁ? アニメにまでなったのに?」

「あのねぇ。興味のない分野はどんなに有名でも知らないわよ」

「… じゃぁただ単に異世界の記憶があるだけって事?」

「そうよ。それよりこれは? 何故こんな事を?」

「あ~、そうだったわ。私はもうあの小説なんて… 話がズレまくってるし、強制力もある訳でもないし、修正不可能なら違う騒動を起こして『救国の女王』にシフトチェンジしようかなってね。私直々のオリジナルシナリオよ~、どう? ふふふ、てか、あなた、さっきからそのゴミ達を殺さず倒しているけど、立ち上がるから意味ないわよ? いいわよ殺しても。どうせスラムの住人なんだし。もう魔力もたっぷり吸い取ったから用無しだしね」

「人をゴミって… あなた転生者でしょ? 何でそんなに残虐な考えが出来るの?」

「はぁ? それこそはぁなんですけど? ここは異世界なの! 日本じゃないのよ?」

 …

 ダメだ。いいように解釈しすぎている。自分の都合のいい風に言い訳? いや、自分の理想に近づける為に現実に目を瞑ってるな。

「いやいや。さっき自分でも転生したって言ったよね? 夢の中じゃなくて転生だよ? 世界が違っても生まれ変わったんだからここは現実世界よ? あなた… 大丈夫?」

「ははは。バカじゃない? 私はこの国の王女よ。そんな社会のゴミと一緒にしないで。この世界には身分制度があるって知ってる? 人は平等じゃないのよ? それに魔法も! 力が全ての世界! 素晴らしい! 私の為の世界って感じ?」

 支離滅裂だ。ダメだこの子。

 私が話をしながら操り人間と葛藤している間に、王女はいつの間にか一メートル近くまで来ていた。

「って、事で、あなた。死んでくれる?」

 綺麗な宝石がいくつもついた短剣がキラキラと光った。