『緊急連絡。囚人が逃げ出した。第二は緊急体制に入れ』
決行日当日、第六から例の誤報が届いた。
「ケリー、非番を全員呼び出して。三〇分以内に団へ出勤するように。ネスタリオとサンチェスは巡回経路の確認と住民への注意発起の指揮を。グローとミロは私と第一へ行くわよ。現場の総指揮はケリーに任せるわ」
「へ? 私が?」
「えぇ。ネスタリオとサンチェスはケリーの補佐を。私達は第一へ行ってから第六へ状況確認に出るわ。四時まではここに居るから安心して」
「いや、でも。私なんかが…」
ケリーはさ~っと青い顔で狼狽えている。
「今までもあったじゃない? それが指揮する側に変わっただけよ。平騎士で経験があるんだから指示も出しやすいでしょう? マニュアルもあるし大丈夫!」
「それはそうだけどさ。いきなりで」
「ほら! シャキッとする! これは団長命令よ。各自早急に動いて!」
「「「はっ」」」
指名された三人は急いで団長室を出て行く。
「グローとミロ。各部署に指示を出したらここに三時四〇分までに来るように」
「うっす」
「了解~っと」
ミロはいつかの様にその場で消えた。グローは騎士達が集まる演習場へ向かった。
私は十手を手入れして短剣も装備する。あとは団長服に着替えてっと、は~、落ち着け私。ドキドキと胸がうるさいぐらい高鳴っている。
そう言えば、こんな戦闘みたいなのって『鈴木ゆり』としては初めてだよね。戦時の記憶はあくまで元ラモンの記憶だし。
実戦かぁ。今更ながら怖くなって来たなぁ。
「女神様、見守っていて下さいね。どうか無事に帰って来れますように」
と、何気なく一人団長室で祈りを捧げたら白い空間へ飛んで行ってしまった。
「は~い! 久しぶりね~ラモン。最近教会とか行ってたくせに私の像に祈りを捧げないなんて! そんなのある?」
「へ? ここは… まさか女神様の所? まずい」
「まずい? 何よ~ラモンが私を呼んだのよ?」
「あ~そうでした。すみません。今から仕事で大事な作戦に参加予定でして。出来れば元に戻して欲しいんですが… すみません」
「え~もう? あっちの時間は止まってるんだしもう少しお話ししましょうよ」
「時間が止まってる? それなら、う~ん。何のお話がいいでしょう?」
「あれは? ドーンとか言う子とはあれからどうなった?」
ふふふ~っと女神様はうれしそうだ。
「ドーンとは… 距離を置いています。私が近くにいると頭痛がするそうなので」
「ふふふ、あの子の大事なものは『ラモンの存在』だったのよ~びっくりしたでしょう? 急に自分の事を忘れてて。ふふ、でもね、障害がある方が恋は燃えるものよ~。このどうしようもないジレジレ感! どう? 恋愛を楽しんでる?」
めっちゃ嬉しそうだけど、ちょ~っとズレてるね… 女神様。
丸っと記憶がないとただの他人だからね? 恋とか… 少しぐらい芽がないと恋心も目覚めないって言うね~。
「楽しむも何も… 今は王女様の件でバタバタしてまして、あはは」
「あ~、あのどうしようもない子ね。本気で私を呼べるとでも思ってるのかしら?」
「生贄を百人集めたそうですよ? それって可能なんですか? 過去に呼び出したとか何とか言ってましたが?」
「ふ~。人間ってラモンの様に愛おしい者もいれば、あの王女の様なゴミもいるのよね~。そもそも論よ。そもそも、人間の命を何人集めようと関係ないわ。過去の阿呆がやらかした件は、呼び出す為の生贄じゃなかったし」
「生贄じゃない? じゃぁ百人もの人間… 何の目的で?」
「ただの殺人鬼だったのよ。人を殺すのに快楽を覚えた頭がイカれてたやつ。それが百人ぐらいになっていたの。一編に百人を殺した訳じゃないわ」
… 初代国王! 話盛ったの? いやいや、そもそも盛る必要が? 何の為の日記だよ! 正しく後世に伝えなきゃ意味ないよね?
「じゃぁ、この国の初代国王はその殺人鬼とどう言う関係なの? 止めたんですよね? 百人の生贄の儀式?」
「だから~、儀式なんて物はないの。初代国王の弟が殺人鬼だったのよ。あの子はいつもの様に村人を殺して回る弟を止める為に私に力を借りたのよ。兄の方は光魔法が使えたからね」
「では、女神降臨は?」
「ラモンと一緒よ。加護を持つ兄が私を呼んだだけ」
なるほど。
国王は身内の醜聞を隠す為、ちょっとした話しを作って日記を残した。『女神降臨』なんて… まぁ、個人的な日記だからいいと思ったのかな? でもね~王族だしね。影響力を考慮して欲しかったな。
「了解です。では、やはり今の王女様は無駄に百人もの命を犠牲にしようとしているから、止めて正解ですね。それ以上に王族として… いや、猟奇的な所は遺伝子的に… まぁ、それは置いておいて。女神様、やっぱり元の世界へ戻して下さい。また、ひと段落ついたらお呼びしますので」
「そう? わかったわ。ちゃんと上から見てるからね~無茶はしない様にね!」
「はい! 心強いです! ありがとうございます!」
「ふふふ、あの子、ドーンともドキドキ新展開を期待するわ!」
「ははは… まずは仕事が優先です。期待に添えるかどうか」
女神様は満面の笑みで私を指差して『ばいばい』と手を振った。次の瞬間、私は団長室で祈りを捧げた姿勢で我に返った。
「よし! 色々聞けたし。行きますか!」
団長室でソワソワしながらグローとミロを待って、私達は西の城門前の集合場所へ向かった。
決行日当日、第六から例の誤報が届いた。
「ケリー、非番を全員呼び出して。三〇分以内に団へ出勤するように。ネスタリオとサンチェスは巡回経路の確認と住民への注意発起の指揮を。グローとミロは私と第一へ行くわよ。現場の総指揮はケリーに任せるわ」
「へ? 私が?」
「えぇ。ネスタリオとサンチェスはケリーの補佐を。私達は第一へ行ってから第六へ状況確認に出るわ。四時まではここに居るから安心して」
「いや、でも。私なんかが…」
ケリーはさ~っと青い顔で狼狽えている。
「今までもあったじゃない? それが指揮する側に変わっただけよ。平騎士で経験があるんだから指示も出しやすいでしょう? マニュアルもあるし大丈夫!」
「それはそうだけどさ。いきなりで」
「ほら! シャキッとする! これは団長命令よ。各自早急に動いて!」
「「「はっ」」」
指名された三人は急いで団長室を出て行く。
「グローとミロ。各部署に指示を出したらここに三時四〇分までに来るように」
「うっす」
「了解~っと」
ミロはいつかの様にその場で消えた。グローは騎士達が集まる演習場へ向かった。
私は十手を手入れして短剣も装備する。あとは団長服に着替えてっと、は~、落ち着け私。ドキドキと胸がうるさいぐらい高鳴っている。
そう言えば、こんな戦闘みたいなのって『鈴木ゆり』としては初めてだよね。戦時の記憶はあくまで元ラモンの記憶だし。
実戦かぁ。今更ながら怖くなって来たなぁ。
「女神様、見守っていて下さいね。どうか無事に帰って来れますように」
と、何気なく一人団長室で祈りを捧げたら白い空間へ飛んで行ってしまった。
「は~い! 久しぶりね~ラモン。最近教会とか行ってたくせに私の像に祈りを捧げないなんて! そんなのある?」
「へ? ここは… まさか女神様の所? まずい」
「まずい? 何よ~ラモンが私を呼んだのよ?」
「あ~そうでした。すみません。今から仕事で大事な作戦に参加予定でして。出来れば元に戻して欲しいんですが… すみません」
「え~もう? あっちの時間は止まってるんだしもう少しお話ししましょうよ」
「時間が止まってる? それなら、う~ん。何のお話がいいでしょう?」
「あれは? ドーンとか言う子とはあれからどうなった?」
ふふふ~っと女神様はうれしそうだ。
「ドーンとは… 距離を置いています。私が近くにいると頭痛がするそうなので」
「ふふふ、あの子の大事なものは『ラモンの存在』だったのよ~びっくりしたでしょう? 急に自分の事を忘れてて。ふふ、でもね、障害がある方が恋は燃えるものよ~。このどうしようもないジレジレ感! どう? 恋愛を楽しんでる?」
めっちゃ嬉しそうだけど、ちょ~っとズレてるね… 女神様。
丸っと記憶がないとただの他人だからね? 恋とか… 少しぐらい芽がないと恋心も目覚めないって言うね~。
「楽しむも何も… 今は王女様の件でバタバタしてまして、あはは」
「あ~、あのどうしようもない子ね。本気で私を呼べるとでも思ってるのかしら?」
「生贄を百人集めたそうですよ? それって可能なんですか? 過去に呼び出したとか何とか言ってましたが?」
「ふ~。人間ってラモンの様に愛おしい者もいれば、あの王女の様なゴミもいるのよね~。そもそも論よ。そもそも、人間の命を何人集めようと関係ないわ。過去の阿呆がやらかした件は、呼び出す為の生贄じゃなかったし」
「生贄じゃない? じゃぁ百人もの人間… 何の目的で?」
「ただの殺人鬼だったのよ。人を殺すのに快楽を覚えた頭がイカれてたやつ。それが百人ぐらいになっていたの。一編に百人を殺した訳じゃないわ」
… 初代国王! 話盛ったの? いやいや、そもそも盛る必要が? 何の為の日記だよ! 正しく後世に伝えなきゃ意味ないよね?
「じゃぁ、この国の初代国王はその殺人鬼とどう言う関係なの? 止めたんですよね? 百人の生贄の儀式?」
「だから~、儀式なんて物はないの。初代国王の弟が殺人鬼だったのよ。あの子はいつもの様に村人を殺して回る弟を止める為に私に力を借りたのよ。兄の方は光魔法が使えたからね」
「では、女神降臨は?」
「ラモンと一緒よ。加護を持つ兄が私を呼んだだけ」
なるほど。
国王は身内の醜聞を隠す為、ちょっとした話しを作って日記を残した。『女神降臨』なんて… まぁ、個人的な日記だからいいと思ったのかな? でもね~王族だしね。影響力を考慮して欲しかったな。
「了解です。では、やはり今の王女様は無駄に百人もの命を犠牲にしようとしているから、止めて正解ですね。それ以上に王族として… いや、猟奇的な所は遺伝子的に… まぁ、それは置いておいて。女神様、やっぱり元の世界へ戻して下さい。また、ひと段落ついたらお呼びしますので」
「そう? わかったわ。ちゃんと上から見てるからね~無茶はしない様にね!」
「はい! 心強いです! ありがとうございます!」
「ふふふ、あの子、ドーンともドキドキ新展開を期待するわ!」
「ははは… まずは仕事が優先です。期待に添えるかどうか」
女神様は満面の笑みで私を指差して『ばいばい』と手を振った。次の瞬間、私は団長室で祈りを捧げた姿勢で我に返った。
「よし! 色々聞けたし。行きますか!」
団長室でソワソワしながらグローとミロを待って、私達は西の城門前の集合場所へ向かった。