「本日の緊急招集はある情報を元に決定したものだ。そして、今回の会議内容に限り、団長と副団長はメモの類を残す事を禁止する」

 さっとペンを下げた副団長達は腕を後ろに回した。

「それと本日は特例で第二のミロ騎士が同席する」

 ミロが一歩前に出て無言で礼をした。

「スナッチ、始めろ」

 例のごとくスナッチ副団長が前に出て話し始める。

「今回招集をかけたのは、各団と連携した合同作戦を展開させる為である。先日、王女が謀反を匂わせる行動に出た。第五の影の報告では、西の教会にてある儀式が行われる事が判明した。よって、今回の合同作戦は王女の計画阻止と捕縛またはそれに伴う戦闘である」

「はい。そもそもの原因究明や決行するに当たっての大義名分は大丈夫なんでしょうか?」

「問題ない。陛下に既に許可は得ている」

「もっと具体的に話して下さい。資料を残せない以上、出来るだけ詳細をお願いします」

「そうだな。まずは王女の不穏な行動で判明したのは、初代国王の日記に記された『女神降臨』を実現しようと画策している事がわかった。それと並行して、王家に不満のある者や最近罪を犯した者の親族を仲間に引き入れている。あとは、ここ一ヶ月でスラム街並びに教会の孤児達、総勢約百名程が行方不明になっているのが判明した。最近動きが怪しいのが、平民街と貴族街の境にある西の教会だ。恐らく敵の本拠地だと睨んでいる」

「ひゃ、百だと? 第二は何をしていたんだ?」

 元第二のシニアスさんはちょっとプンプンだ。そうだよね~。

「ラモンを責めてやるな。これは前団長のトロイが意図的に巡回経路を変更していた為発見が遅れたのだ。先日牢にて尋問した所、王女の指示で変更したと吐いた」

「王女の指示? では!」

「あぁ。この百人も『女神降臨』に関係している」

「てか、そもそもなんで『女神降臨』なんだ? そんな実在しない女神様を呼ぶなんて。王女は何を狙っている? そんな事で国王にはなれないだろう?」

 今度はユーキさんだ。

「それは日記に記してあった。この国が誕生する前、『ある男が百人の人間を(にえ)に女神を呼び出した』とある」

「贄?」

「何せ古い日記だからな。言い回しが独特なのだが、その男は百人の贄の生命力? 魔力の事かも知れんが、その力で最終的に『女神様にお会いした』と書いてあった」

「その『ある男』は初代国王ではない?」

「そうだ。初代国王はたまたまその場に居合わせた人間だ」

 …

「続けるぞ。呼び出された女神様はその惨状に大変悲しまれその男に天罰をお与えになった」

「天罰? では、王女はわざわざ女神様を怒らせるのか? 矛盾していないか?」

「そうだ。恐らくだがご自身では実行されないのではないかと。初代のようにその場に立ち会って、女神様に善人を装い助力し国王を狙う算段ではないかと思っている。集めた仲間の誰かにやらせるつもりだろう」

 無理があるな。もう小説内容がズレたと言っていたんだから破綻してる訳だし諦めればいいものを。

「王女はわざと当時の惨状を再現させようとしていると? 初代国王は悪事を暴く為にたまたま居合わせたのでしょう? そんな無茶な。初代国王の善行を再現して『私は初代の再臨である』とでも言うのか?」

「ご名答」

 団長達は一斉にため息を吐く。そりゃそうでしょう。こんな子供じみた発想。しかも百人の贄って。人の命をなんだと思っているのか。

「まとめると、王女は女王になりたい。そのパフォーマンスの一環として『女神降臨』を目論んでいる。儀式には百人の贄が必要で、それは行方不明のスラム街の人間達と推測される。仲間は罪人の子息や子女達。その儀式の場所で怪しいのが西の教会って所ですか?」

 シニアスさんが呆れながら話をまとめてくれた。

「そうだ。西の教会を含め全ての下調べは済んでいる」

「陛下はどこまで許して下さるんです? 最悪」

 そこ大事だよね。敵と言えど相手は王族だし。

「基本は捕縛。本人が攻撃または誰かを殺した場合は死なない程度ならこちらから攻撃しても良いとの事だ」

 そこまでか。最悪、殺さず生かして連れて来いと。陛下も英断されたな。もう王女を見限ったんだろう。

「了解。で? 魔法士団は今回はお呼びじゃない?」

 ユーキさんが両手を組みながら発言する。

「あぁ。騎士団でやる」

 総団長が低い声で答えた。おいおい、やる気満々だな。

「では、当日の作戦を発表する。各団から十名の精鋭を選出するように。団長と副団長は必須だ。各団には特徴があるので選出方法はあとで教える。
 決行は五日後の午後五時。決行一時間前に西の城門に集合だ。第二に関しては非番も含め全騎士で城下街の警護に当たってくれ。午後三時過ぎに第二へ『囚人が逃げ出した』と誤報を送るから、それで包囲網を張れ。城下街の人達の安全確保が優先だ」

 私は無言で頷く。グローとミロにも目で合図を送った。二人共うんと頷く。

「当日は西の教会に潜入している影が合図を送る予定なので、それが決行開始の号令になる。王女とその仲間の捕縛、行方不明者の捜索と保護が今回の目的だ。それまで決してこちらの動きを悟られるな。いいな?」

「「「「「はっ」」」」

 さぁ、ここまで来たらあとは捕まえるだけだね。

 会議が終わってもガヤガヤと団長同士、副団長同士で話し合っている。久しぶりの大捕物だからみんなも気が立っているのかな、少し声が興奮気味だ。

「ラモン」

「はい。総団長」

「お前は当日、教会組に入るように。側近が数人居るだろう? 誤報を聞いて指示を出したら城下街は側近に任せるように」

「了解です。第二からは何人必要ですか? 先程は各団体から十名とおっしゃていましたが」

「第二は三から五名でいい。城下街の警備があるからな」

「あと、私からもいいですか?」

「何だ? ビビって来たか?」

「そりゃ~。私は中位騎士の戦闘能力ですよ? 当日は後方支援に回して下さい」

「あ?」

 総団長は殺気立っている。今から臨戦状態? 私にメンチ切って… ちょっと、怖いんですけど~。まだ決行日じゃないっての、もう。

「ほら、総団長。私のアレ(・・)

「ん? あ~」

「私も万が一は、アレを。負傷者にこそっと回復魔法を使います」

「なるほど。そうだな。まぁお前は戦闘には不利か。いいだろう、そのような配置にする様にドーンに言っておく」

「ドーン?」

「あぁ今回の作戦はドーンが立てた。正式には明日復帰だがもう第一には来てるんだ。ドーンも第一に戻った以上参謀役にも戻ってもらわないとな。『稲妻ブレーン』の再来だぞ。どんな作戦かワクワクするな~」

「あはは。総団長、ワクワクとか不謹慎ですよ。でもお手柔らかにお願いしますね~」

 そっか。ドーンも当日居るんだ。しかし、復帰早々ご苦労様です。てか無理しないといいけど。心配だな~。

「クックックッ。ドーンの心配してる場合じゃないぞ? お前はお前の身を最優先に考えろ。恐らく戦場で一番弱いだろうからな」

 くっそ~。またしても心を読んで!

「はい… すみません」

 スナッチさんがお決まりのようにエアー『ば~か』をしている。

 ふんだ。『ば~か』。