「先日付で第二騎士団団長に就任したラモンです。一年前までここに居たので多少の事は理解しています。前団長の帰還で混乱した団を立て直したいと思います。騎士階級や勤務体制、給与などは、私が在籍していた時代の仕様に戻しますので。それから、側近を選出しましたので発表します。と、その前に、質問のある人?」

 パチパチパチと拍手が鳴ってるからOKかな? よし。

「ないようなので呼ばれた人は前に出て来て下さいね。サンチェス、ミロ、ケリー、ネスタリオ」

 ワクワクワク。

 グローも知らないと言ったミロ・ジェスター騎士。さぁ、居るかな?

 ぞろぞろと前に出る四人。きゃ~、ケリー! 私は久しぶりの親友にニコニコ顔になる。

「あ、あの~」

 そろっと手を挙げる新人騎士。若い騎士が先輩にせっつかれている。代わりに言えって?

「どうぞ」

「その~、あの~」

 と、なかなか言い出しにくいみたいだ。どうしたんだろう?

「何でしょう? 何でもいいですよ?」

 私が優しく言い返すと、後ろに居た先輩騎士が新人騎士を押し退けて私を指差す。

「おい、ラモン! お前、親友だからってケリーを側近にするのはズルくないか? それなら俺を入れろよ」

 あ~、いつかの先輩。しかもラモン呼びに戻ってるじゃん。てか、この人にかわいがってもらった記憶が皆無なんだけど。

「おい、そこ! ラモン団長だ! 今はお前の上官だ。団長を付けろ。他の者もだ! 昔は後輩や同僚だったかもしれないが、今は団長だ。今後は敬意を払え、いいな?」

 珍しくグローが横に入る。偉いな。私が言うと角が立つしね。普段はダルそうなのに、やるじゃん。ありがとう。

「ふん、それよりケリーの事、ラモン団長さんよ~どうなんだ?」

「ケリーは親友です。おっしゃる通り。でもだからですよ。私が何を欲し、何を考えてるのか、部下として即戦力の人材です。例えばですが、あなたは私が思ってる事を先回りして準備や補助が出来ますか? それにケリーは公私混同はしません。親友だからこそわかっています。有能な側近になってくれる事間違いなしです」

「…」

 言い返せないようで、いつかの先輩は黙ってしまった。その周りに居た野次馬もバツが悪い顔をしている。

「ケリーは今後、このような声で風当たりが強くなるでしょう。でも、みなさんには手助けをしてあげて欲しいんです。ケリーは団の為に仕事をしてるんですよ。何も私と遊ぶ為じゃない。みなさんと同じように第二の為に、団を立て直すべく尽力してくれるでしょう」

「団長、いいっすか? 俺からも」

「いいよ」

「おい、お前ら。俺は知ってる通り平民出身だ。だから副団長なのに今まで出来なかった事が多いし、口調もこの通りで貴族騎士達には不満があるだろう。でも、ラモン団長は違う。言葉も態度も悪い俺を見てくれで判断しなかった。ちゃんと話を聞いてくれた。第二は生まれ変わる。平民だからとか貴族だからとかがなくなるんだ。だから、これからはみんなでラモン団長を支えて行こうぜ!」

『うぉ~』と大歓声が上がる。第二も平民騎士が多いからなぁ。苦労したんだね。

「ありがとう、グロー。信頼が厚いんだね」

「うっす」

 と、グローは耳を赤くして恥ずかしそうに私の後ろに下がった。

 私の横にそろった側近を見る。全員いる。

「では、解散。他に疑問や文句でも、何かあったら団長室までお願いします」

 グローに目配せし、朝礼はそれで終わらせた。

「では、側近のみんなはこのあと団長室へ来て下さい」


「みんなソファーに座れ。ケリー、悪いがお茶を入れてくれ」

 早速グローが指示を出す。私をソファーに座らせると、私の後ろに立った。

「では、団長お願いします」

「ありがとう、グロー。みんなも楽にしてね。昨日グローにも言ったんだけど、タメ口や姿勢など団の中ではとやかく言いません。団の外、勤務中や他の騎士団の人が来た時はちゃんとしてくれたらいいから。って事で、みなさん初めましてね。ケリーは知ってるけど、他の人は私が抜けた後に来た人かな? 今日から側近になるに当たり何か意見はありますか?」

「はい」

「どうぞサンチェス」

「団長は団を元に戻すとの事ですが貴族騎士は言う事を聞くでしょうか?」

「聞かなきゃ仕事にならないから即時減給、降格またはクビかな?」

「ただの脅しではなく?」

「脅しても時間の無駄じゃん。一回目は減給、二回目は降格で大体わかってくるでしょう」

 サンチェスは目を見開いて驚いている。グローに目配せしてうんうんと納得したみたいだ。

「私からはなぜ四人も側近を? 今までは居なかったように思います」

 ケリーから質問が挙がる。

「前々団長と副団長は任期も長かったし有能で騎士階級も上級でした。でも、私は戦時の功績で団長に昇格したんです。実力は中位騎士、団長としてもまだ一年経っていません。それを補う為です」

「第二の勤務体制などを改めるだけで四人も要りますか?」

 今度はネスタリオだ。

「それだけが仕事じゃないの。今は細かいモノを合わせると色々と問題があってね。一番の問題は教会よ」

 さっきから様子を伺っているが、例のミロは終始ニコニコ顔で裏が読めない。う~ん。

「教会?」

「うん。今から報告書を読んでくれる? ちょっと長いから」

 グローはみんなに報告書を回す。

 みんなが読んでいる間に私はミロに話しかけた。

「ミロの騎士経歴書が汚れてて、一部読めない箇所があったんだけど、口頭でいいから今答えてくれる? グロー、名簿に加筆して」

「了解っす」

「何でしょう?」

「ごめんね。大した事じゃないから、読みながらでいいわ。まず、第二の前はどこに居たの?」

「第五です」

 即答かよ。

 そしてまさかの第五。どう返そうか。むむむ。

「第五? へ、へ~、主にどんな事を?」

「ふふふ。ははははは。演技が下手ですね~。団長は私の正体がわからないのでしょう?」

 ミロの横で報告書を読んでいたケリーが、咄嗟にミロの喉元を剣で押さえる。

 お~。ケリー、やっぱり鋭い。

「おやおや、物騒ですね。これは何かの演出ですか?」

「いえ。ごめん、ケリー、いいわ」

 そう言われたケリーは睨みながら剣を戻す。サンチェスとネスタリオはハテナになって動揺している。

「ミロ・ジェスター。あなたがうちに異動になった経緯が、と言うか、名簿には紙の履歴があっても、あなたの存在自体が第二の過去にないの。どう言う事か説明を」

「ふ~む。そうですねぇ。総団長はこの事をご存知で?」

「総団長? いえ、側近に指名したのはまだ報告していないわ」

「そうですか… 言える事は、それより上の存在に送り込まれました」

 それより上? 王族? いや、総団長は王族。でも、騎士団の組織で言えば、総団長に命令を下せるのは陛下。やっぱり王族かぁ。

「了解。第二でのあなたの仕事内容は?」

「調査と護衛です」

「対象は?」

「ここまでです。あなたならわかるでしょう? いやいや、側近にして頂いて手間が省けました」

 ミロは依然、ニコニコ顔で表情を変えないので全然読めない。

「… 了解。第二の本来の仕事もしてくれるのよね?」

「そうれはもう。側近ですから、ちゃんと給料分は働きます」

「ならいいわ。今のは聞かなかった事にする。私には害はないんでしょう?」

「はい」

「グロー? そう言う事だから、過去の詮索は終わりよ。みんなも、今の会話は忘れるように。外に漏らせばクビよ」

「うっす」
「「「はっ」」」

 他のみんなは総団長より上で何となく察しがついた様で、誰からもツッコミはなかった。

 はぁ~。この先大丈夫かな。