「グロー、今日からよろしくね」

「うっす」

 今日も両手にポッケなグロー。ちょっと初日だけど最初が肝心だしね。言っちゃうか。

「まず、その両手を出そうか? 気になってたんだよね。団内では極力言わないようにはするつもりだけど、上官や他の団の騎士の前では、姿勢と態度は改めてね。服装とかは追々でいいから。あと、口調も。普段はタメ口でいいから。今の通りでいいよ。でもね、団長会議ではちゃんとしてね」

「わかりました。すみません」

 ちぇ~っと言いそうな感じではあったが、すぐに態度を改めてくれた。よしよし。

「じゃぁ、現状の把握をしたいから、昨日言ってた報告書とここ一年の収支報告書を見たいから持って来て」

「机に用意しておきました。あと、騎士名簿もあります」

 お~、仕事が早いな。実は有能?

「ありがとう。あとさぁ、グローは今日は帰っていいよ」

「はぁ?」

「だって目の下のクマがすごいし… 今日まで第二を一人で支えてくれてたんでしょ? 私は今日はこの机から離れられないだろうし。一日しか休みをあげられないけど… お疲れ様」

 グローは変なものを見る顔になってフリーズした。

「だ、大丈夫?」

「はっ、え? はい。休んでいいんすか?」

「うん」

「は~~~。マジか~。休みだぜ~」

 グローはそのまま団長室のソファーに倒れ込み、グ~っと声を出して秒で寝た。

「え? ここで寝るの? ちょっと、グロー?」

 ゆっさゆっさと身体を揺らすが全然起きない。こっちがマジかだよ! 本当に!

「まっ。いっか。害はないし」

 私はグローに上着を掛け布団代わりにかけて事務仕事に集中する。

 まずは、報告書。

 うんうん、言っていた通りの内容だ。


 一通り目を通してわかった事がある。城下街警備が疎かになっているから、治安が悪くなている。苦情が去年に比べて増えているしね。そして、その影に隠れて教会がちょっと目に余る感じかな。この教会の無茶振りが気になるな。最後は、この騎士名簿。多分作成したのは、前副団長で現第七団長のシニアスさんだろう。よく出来ている。騎士の特徴と履歴がよくわかる。

 ふ~。

 シフトは前団長のトロイが来る前に戻せばどうにかなりそうだし。騎士達もあまり異動は無いようだからこの名簿を参考にして、早く側近を決めよう。グローだけじゃちょっと手が回らないだろうしね。あとは、ケリーだよ。親友が居るからちょっと心に余裕が出来るかな。

 今まで、ドーンがほとんどやってくれていたような事を、今後は数で分散しないとね。さぁ、がんばりますか!

「グロー、グロー。起きて。もう夕方だよ?」

「へ? はい。すんません。ここで寝ちゃったっすね。え? もしかして全部読んだんすか?」

「あ~、うん」

「これは… あのヘボ貴族と違う? ごほん、で? どうでした?」

「うん。教会が一番の悩みかな?」

「そうなんす。俺らもそこまで手が回らなくって。西の教会で布教活動? って言うんですかね。集会が頻繁に行われて、信者が、それも熱狂な信者が増えてて。あぁ、信者が増えるのは問題ないんすよ。問題なのは、その熱狂信者が揃って『女神様の使徒を王に』と言うんすよ。しかも声に出して。使徒ってなんすかね? 聞いた事あります?」

「ない。使徒か… 何か手がかりがある?」

「ないっす。俺んちあんまり教会へ行かないんで」

「いやいやそう言う事じゃなくて、他の隊員に聞いたりは?」

「ないっす。忙しかったんで」

 グローはあくびをしながらお茶を入れてくれた。まぁ、しょうがないか。

「わかったわ。その件は明日以降、私達で調べましょう。あと、明日だけど、朝礼で挨拶するし。その時に側近も発表するから。その人選はここに書いといた。今見てくれる? グローから見てこいつはやばいとかあったら教えて」

「うっす」

 グローはざっと目を通して、目が止まった。

「こいつ… 知らねぇっす」

「は? 知らない? 異動になったとか?」

「どうっすかね。俺が第二に来たのはあのトロイのヘボと一緒だったんで。でも、この名前は知らないな。今の団には居ないと思いますよ」

「でも… 名簿には異動してきたとか書いてないし…」

 ん? どう言う事?

 私が第二に最後に居たのは約八ヶ月前。四ヶ月前にトロイが就任したから、この四ヶ月間で来た人? その前の四ヶ月で来た人なら、その時に副団長をしていたシニアスさんに聞けばわかるかな?

「わかった。一応、明日名前を読み上げてみるわ。もし、存在するならグローは黙っててね。今まで居たかのように振る舞って。もしかしたらスパイ? かもしれないし」

「スパイって。ははは、どこの?」

「第五が何らかの思惑で… それこそトロイを見張ってたとかで臨時で居たのかも」

「それなら、明日はもう居ないんじゃないっすか?」

「それもそうだなぁ。う~ん」

「まっ、明日呼んでみて、もし居たら様子見って事で。下手に詰め寄っても逃げられたら困るし」

 グローはあっけらかんとしている。ん? 気にならないのかな?

「え~、どうしよう。めっちゃ強い人とか、めっちゃ悪意のある人だったら…」

「団長って… 何かやらかしたんすか? 狙われる理由でもあるんすか?」

 いや~。狙われると言うか、睨むと言うか、絡まれてると言うか。

「ちょっとね。王女様に嫌われてる? ほら第四の団長が王女様のお兄さんでしょ? 私、その人と仲がいいから『近づくな』って言われた事があってね」

「な~んだ。ただの嫉妬じゃないすか~王女様とか言うからビビったぁ。大丈夫っすよ~それ。上位のお嬢様でイケメンの兄に近づく、自分より下のハエが気になるんでしょう」

「おい! ハエって… もうちょっと言い方があるでしょ!」

「すんませ~ん。ほら、団長って、女子にしては飾りっ気ないと言うか… 黄色の瞳は魅力的ですが、他は普通じゃないっすか。王族や上位貴族からしたら普通でしょ?」

 …

「本当の事をズバズバと~! もう! わかってるわよそんな事!」

「ならいいんす。って事で、明日、もしそいつがいたら様子見って事でいいんすね? 居たら居たで面白そっすけど」

「全然面白くない! ふ~、じゃぁ明日はよろしく」

「うぃ~」

 グローは全身伸びをして身体をボキボキ鳴らしながら帰って行った。

 は~。私も帰ろっと。